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第52話 消費者が諦めていた部分に斬り込む!

北村森の「今月のヒット商品」

この連載コラムで前回(2021年10月)、微アルコール飲料がヒットしているという話をお伝えしました。アルコール度数が1%に満たない商品が、「普段お酒をあまり飲まない人」ばかりか、「飲むことのできない場面でも、どうにかして飲みたい人」の心までも掴んだ、という話でした。

 

複数のニーズを掴んだ商品というのは、やっぱり強いんですよね。で、今回の話なんですが、やはり2つの切実なニーズに応えて売れた、と表現できそうな新商品のことをお伝えしましょう。ただし、その2つのニーズの意味合いが、前回の微アルコール飲料の話とはちょっと違うんです。

商品はこれです。洋式トイレの左側に箱のようなものが付いていますね。

 

サンコーが9月下旬に発売した新商品で、「後付けトイレバブル洗浄機」といいます。値段は4980円。登場したらすぐさま品切れとなるほど話題を呼んで、11月初旬のいまも予約受付で再出荷待ちの状態なんです。一体なにをなすための商品なのか。

 

画像をご覧いただければおわかりになる通り、縦13センチ、横15センチ、高さ15センチほどの形状ですから、そんなに大きくはありませんね。これを、家庭の洋式トイレのヘリに、付属している両面シールでくくりつけます。で、本体を充電して、さらに本体についているタンクに、中性洗剤を溶いた水をあらかじめ入れておきます。 

洋式トイレで用をたす直前に、本体のタッチセンサーに触れると、本体から泡がモコモコと噴出されて、トイレの水面全体を覆います。

 

それがどうした?と思われるかもしれませんね。

 

これ、「男性が洋式トイレで立ったまま用をたしたときに、周りへの飛び跳ねを防いでくれる」商品なんです。泡がトイレの水面を覆うから、飛び跳ねを防いで、トイレの周り(壁や床)を汚さないというわけ。初めからこうした機能を盛り込んだ洋式トイレは最低でも何万円もしますけれど、この商品はいま使っているトイレを買い換えずに、後付けできる洗浄機であるのがポイント。先ほどお話ししたように値段も4980円ですから、手を出せそうな範疇にとどまっています。

 

つまり、言ってみれば、「立って用をたしたい男性」と「飛び跳ねを我慢できない家族」の長年の攻防に終止符を打てるかもしれない商品であるわけです。ただ単にトイレの内部を泡できれいに保つという以上の意味が、そこにあるのですね。

 

今年の夏のある調査では、男性の60%以上は「洋式便器では座って用をたす」

という結果が出ていましたけれど、別の角度からみれば、それでも一定数の男性は「立ってしたい」ということ。ただ、家族からの文句をどうにかしたい。コロナ禍で自宅にいる時間が長くなったのも深く関係しているかもしれません。文句を言われる(文句を言いたくなる)場面が増えたという話ですから。

 

実際に使ってみました。タッチセンサーにに触れると、タイムラグはほぼなく、すぐに泡が出てきて、トイレの水面全体を覆いました。そして確かに、泡の存在によって、飛び跳ねを相当防げた印象です。

 

しかし、難点もありました。トイレによっては、付属の両面シールでは固定しきれません。素材や形状次第で相当に苦労します。わが家では、より強力なテープを買う必要があった。さらに、タンクが小さく、14〜15回の稼働で空っぽになる。そのたびに、しゃがみ込んでタンクを取り外し、水と中性洗剤を補充する作業を強いられます。

 

でも、購入すること自体に、家族から反発を受けないという効果が期待できます。「これ買ったんだから、立って用をたしてもいいよね」と……。だからこそのヒットでしょう。

 

この商品の場合、「トイレの中をきれいに保つ」だけでなくて「男性の思い」にも応えた。そこがポイントですね。さらに表現するなら、「消費者が諦めていた部分に斬り込んだ商品」かと思います。そういう性格の商品もまた強いという話です。

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