「御社を高く評価している会社があります」
「事業の拡大を検討してみませんか」
ここ数年、社長宛に複数のM&A(合併・買収)仲介会社から、ダイレクトメールが届いていることでしょう。
不審な営業の手紙やメールは開封しないという社長も多いと思いますが、取引のある銀行や証券会社などからM&Aの話を持ちかけられることもあるでしょう。
中小企業にも会社を売る話、買う話の両方が頻繁に来るようになりました。
少子高齢化による企業の後継者難の情勢からも、M&Aの市場は拡大しつつあります。
そこで今回は、社長がおさえておくべきM&Aの基本について、説明します。
最近3ヵ月間で何件M&Aの話がきましたか?
⚫️事業のライフサイクルでM&Aの目的が変わる
M&Aには、売り手側と買い手側にそれぞれ目的があります。
売り手側の目的で最も多いのが、後継者がいない同族会社の事業承継対策です。
次に多いのが、不採算事業を売却して、自社の得意分野に人材等の資源を集中させて、会社を立て直すケースです。
一方買い手側の目的は、事業のライフサイクルの成長期、成熟期、衰退期によって異なります。
成長期の会社は、営業エリアの拡大や、関連する業種業態への拡張などが目的です。
成熟期から衰退期の会社は、今後成長が見込めない業界から脱却して、新しい事業の開拓を狙います。
売買目的の対象は、人材、技術、製品、ノウハウ、特許、ライセンス、商圏、顧客、など様々です。
変化のスピードが早い現在では、自社で事業を育てていては時間がかかるので、「時間を買う」というイメージです。
御社の事業サイクルは、成長期ですか成熟期ですか?
⚫️多様なM&Aのやり方を適切に選択する
会社法や税法が改正されて、M&Aの手法も多様化しています。
大きく分けて次の3つのやり方があります。
① 合併:吸収合併、新設合併など
② 買収:株式取得、増資引受、事業譲渡など
③ 提携:資本提携、業務提携など
合併は、会社自体を丸ごと受け入れる感じです。原則として、すべての従業員や資産・負債を引き継ぎます。
買収は、会社を存続したまま株式の全部または一部を取得して経営権を取得します。事業や店舗を部分的に買い取ったり、特許や技術、ライセンス等の権利を売買したりすることもあります。
よりゆるやかなやり方が提携です。相手を支配するのではなく、お互いに協力関係を結びます。
人材の交流や資本の増強、技術協力等により、Win-Winの関係を構築していきます。
もしM&Aをするとしたら、どのやり方を選びますか?
⚫️企業価値の評価方法を理解する
社長が一番気になるのが、いくらで会社を売買するのか、つまり会社の価値、値段です。
一般的な企業価値の評価方法は、次の3つです。
① 将来のキャッシュフローで評価する方法:DCF法など
② 会社の純資産で評価する方法:時価純資産法など
③ 市場での取引価格を基準とする方法:市場価格法、類似業種比準法など
一般的なM&Aで使われているのが、DCF(ディスカウント・キャッシュフロー)法です。
対象とする会社が、将来(今後5〜7年間)獲得するキャッシュフロー(営業利益をベースに計算)を、現在価値に割り戻して計算します。
その会社の収益力から、投資対効果を見積もるわけです。
純資産法は、会社の保有する資産(時価換算)から負債を差し引いた純資産で評価します。
その時点で、全財産を処分して負債を返済したらいくら残るのか、会社の清算価値を表しています。
上場会社の場合は株式市場の取引価格を基準にしますが、非上場会社の場合は類似業種の上場会社の株価を参考にして価値を見積もります。
いずれの評価方法も、決算書の数値を元に一定の計算式を使って算出します。
自社の株価について、経理や顧問の会計事務所に依頼して、定期的に評価しておくといいでしょう。
決算書のどの数値が変わると株価に影響するかがわかると、将来的な財務戦略に使えるようになります。
また、会社や事業を買う場合にも、評価方法を知っていると適切な判断ができます。
現在の自社の株価はいくらですか?
⚫️ M&Aの基本をおさえて経営判断に活用
今回は、社長がおさえておくべきM&Aの基本について、説明しました。
ポイントは次の3つです。
・売り手と買い手の立場やライフサイクルで目的が異なる
・合併、買収、提携の中から適した手法を検討する
・企業価値の評価方法を理解して財務戦略に活かす
経済環境が変化する中、あらゆる業界で生き残りをかけて、今後もM&Aが増えていくと言われています。
現在順調な会社でも、5年後10年後のことはわかりません。
社長としては、売る話や買う話が来たときに、経営判断を誤らないように準備しておきましょう。
会社の10年後を考えていますか?