全国銀行協会は2022年11月に、手形や小切手の交換業務を電子化する電子交換所をスタートしました。
これにより、紙の手形を直接やり取りしていた全国の手形交換所の業務は、明治時代以来続いてきた役割を終えました。
すでに政府は、2026年度末までに紙の手形を廃止することを決定しており、金融経済界も手形や小切手の全面廃止に向けて取り組みが進んでいます。
手形取引は、この約20年間に金額ベースで約9割減少しており、今後約4年間で完全にデジタル化していくことになります。
そこで今回は、手形のデジタル化について、説明します。
御社は、月に何枚ぐらい手形取引をしていますか?
⚫️ 2026年までに紙の約束手形廃止へ
政府が、紙の約束手形を廃止する目的は大きく2つです。
1つ目が、中小企業の資金繰りの改善です。
一般的に約束手形は、現金化されるまでに数カ月かかります。
約束手形の振出日から決済期日までの日数は、業種によって90日から120日となっています。
手形を発行する側の企業にとっては資金繰りに役立っていますが、一方で受け取る側の下請け企業は、その分の資金繰りのしわ寄せを受けていました。
このような決済状況を改善するために、仕事や製品を発注する大企業に約束手形の使用をやめるように促し、下請け企業への支払い期限を60日以内に短縮する方針です。
目的の2つ目が、デジタル化による事務効率の改善です。
紙の手形を発行して印紙を貼り、書留郵便で送り、受け取った側が金庫で保管し、期日に銀行へ取り立てに行くという一連の経理事務は、発行側も受取側も手間と費用がかかっています。
経理部門においては、受取手形と支払手形を別々に手形帳に記録しながら管理し、裏書や割引をしながら資金繰りをしていました。
手形をデジタル化して管理することにより、経理部門における煩雑な手形事務の手間が解消できます。
紙の手形がデジタル化することにより、資金回収期間が短縮され、経理事務の効率が改善されることにより、経営のスピードが早くなっていきます。
手形による資金繰りで頭を悩ましていませんか?
⚫️手形取引はでんさいネットへ移行
紙の手形の電子化は、2013年に「でんさいネット」という全国共通のサービスとして開始されています。
手形交換所がインターネット上に開設されているというイメージです。
でんさいネットを利用するには、インターネットバンキングの契約が必要になります。
月額基本料のほかに、発行や決済ごとに手数料が発生するため、費用負担を気にする中小企業においては、これまで利用があまり進んでいませんでした。
しかし、割高であったでんさいネットの利用手数料に関しては、金融機関側で見直されていますので、取引銀行に確認してみてください。
一方で、手形がデジタル化すると、経理事務のコストが削減できます。
手形の発行や保管、取り立てなどにかかっていた経理部門の事務時間が大幅に短縮されるだけでなく、手形帳代や印紙代、郵便代等が節約できます。
インターネットにアクセスすれば、債権債務の状態がオンライン画面で確認できるので、手形帳をつけて管理する手間が要らなくなります。
会計システムと連動させれば、会計仕訳を自動的に生成できるので、手形管理の専任事務員を配置する必要がありません。
なんといっても中小企業にとっては、資金回収の期間が短縮され、資金繰りが改善されるのが一番のメリットです。
これまでの紙の手形と同様に、割引や裏書きして利用することもできます。
さらに、デジタル化すると使い勝手がよくなり、額面金額だけでなく小口に分割して資金繰りに利用することも可能です。
手形をデジタル化していない理由はなんですか?
⚫️デジタル化で決算書の表示科目も「電子記録債権/債務」に変更
紙の手形がデジタル化すると、決算書に掲載される勘定科目名も変わります。
受取手形が「電子記録債権」に変わり、支払手形が「電子記録債務」という勘定科目になります。
自社の会計システムの勘定科目の設定が適切に改訂されていることを、経理に確認してください。
変更されていないようでしたら、今期から勘定科目の名称を振替るようにしましょう。
具体的な会計取引は次のようになります。
でんさいネットを経由して、でんさい取引が発生(例:500,000円)したら、振出側と受領側でそれぞれ次の会計処理をします。
<振出側>
(借方)買掛金 500,000 (貸方)電子記録債務 500,000
<受領側>
(借方)電子記録債権 500,000 (貸方)売掛金 500,000
社長は、決算書を銀行に提出する前に、自社の決算書の表示が「電子記録債権/債務」に変更されていることを確認してください。
決算書の勘定科目名もデジタル対応できていますか?
⚫️手形のデジタル対応後の資金繰りを予測する
今回は、手形のデジタル化について、説明しました。
ポイントは次の3つです。
・2026年までに手形取引を電子化する
・でんさいネットへ移行する
・勘定科目名を「電子記録債権/債務」に変更する
決済の方式が変わるということは、経営に大きな影響与えます。
支払いサイトと回収サイトの日数が変わると、会社の運転資金が変動し、資金繰りが変わります。
社長としては、手形決済がデジタル化した後に、業界や自社の資金の流れがどう変わるのかについて、しっかりと予測しておきましょう。
また、今後の資金繰り管理について、経理としっかり打ち合わせをしておいてください。
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