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税務・会計

第129回 経理社員が管理職を敬遠する理由とは

賢い社長の「経理財務の見どころ・勘どころ・ツッコミどころ」

中小企業が直面する管理職育成の壁

「経理課長にはなりたくないです」

中小企業の社長や経理部長が、経理社員との面談でこんな言葉を耳にすることが増えています。

かつては昇進して部下を持つことが成長の証と考えられていましたが、いまでは管理職になることを尻込みする社員が経理部門でも少なくありません。

会社にとっては後継の管理職が育たない深刻な問題です。

 

なぜ、多くの経理社員が管理職になることを望まないのでしょうか。

その背景には、若手社員の価値観の変化や、経理管理職が担う責任の重さが影響しているようです。

そこで今回は、経理社員が管理職を望まない理由とその対策について、解説します。

 

経理社員は管理職になることを希望していますか?

 

若手経理社員はヒト・モノ・カネの管理に苦手意識

経理管理職になると、単なる数字の処理だけでは済みません。

部下の育成・評価といったヒトの管理、会社の資産や負債などのモノの管理、日々の資金繰りとしてのカネの管理まで、幅広いマネジメントを求められます。

 

しかし、経理職を志した人の中には、事務作業や計算集計は得意でも、ヒトやモノ、カネの管理に苦手意識を抱いている人もいます。

特に若手経理社員は、自分のペースで専門業務に集中するスタイルを好む人が多く、人間関係や社内調整、対外折衝などを煩わしく感じる傾向があります。

若手経理社員からすると、経理課長の仕事は業務の割り振りや社内外との調整に追われ大変そうに見えているのかもしれません。

 

まずは、管理職が担うヒト・モノ・カネの管理業務を明確に洗い出し、可能な限りシステム化、マニュアル化して、役割分担し負担軽減を図ることが重要です。

今後は、管理業務の一部をAI化することも視野に入れておきましょう。

 

また、若手経理社員には事務作業だけをさせるのではなく、早い段階から他部門とのミーティングや経営会議に同席させて、社内での人脈形成をしやすくしておきます。

定期的に業務ローテーションして、債権債務管理や固定資産管理、資金繰りなど広範囲に実務を体験させておくと管理業務に対する漠然とした不安が解消できます。

 

経理課長が中間管理職としての苦労を周囲にグチっていませんか?

 

会計情報の責任の重さが心理的負担に

経理管理職は、会社の財務状況を正確に把握し、経営者に毎月報告しなければなりません。

決算書や税務申告書、銀行向け報告資料など、社外に出す情報の正確性は会社の信用に直結します。

数字のミスが経営判断を誤らせたり、銀行の信用を失墜させたりするリスクもあり、経理部門では失敗が許されないという緊張感が常にあります。

 

若手経理社員の中には、こうした責任の重さを実際に目の当たりにし、自分には荷が重いと感じてしまうケースも少なくありません。

特に中小企業では、人員が限られており、チェック体制やサポート要員が十分でないことが多いため、責任と負担が一人に集中しやすい構造的問題があります。

 

そうならないために、責任を分散させる組織体制が必要です。

チェックリストや承認フローを整備し、個人の責任が過重にならない仕組みをつくることが大切です。

経理だけでなく、各部門が責任をもって取引数字を点検する体制を構築しておくと、経理管理職の心理的負担が減ります。

 

社長としては、顧問の会計事務所にも協力を要請して、第三者の視点から経理制度や監査体制を強化するとともに、定期的に会計監査を実施してもらいましょう。

経理社員に対する研修教育を充実させて、継続的なスキルアップを通して、自信を付けさせることも大切です。

 

財務数字の責任を経理管理職だけに負わせていませんか?

 

経理管理職を育成するための方策

管理職になれば、当然ながら給与は上がりますし、意思決定に関与できるやりがいもあります。

一方で、それ以上に業務範囲の拡大や責任の増加に対する不安が勝ってしまう人が多いのが現実です。

特に中小企業では、管理職がプレイングマネージャーとして実務もこなしながらマネジメントも担うことが多く、「仕事が増えるだけで報われない」と感じる社員も少なくありません。

 

このような状況の中で、中小企業が経理管理職を育成するための方策としては、以下のような取り組みが有効です。

実務年数だけでいきなり管理職に任命するのではなく、準備期間として、サブリーダーやチームリーダーなどの中間ステップを設けて業務体験させます。

段階的にマネジメント経験を積ませることで心理的ハードルを下げられます。

 

次に会社としては、責任と権限のバランスを見直しておきましょう。

管理職に責任を負わせるだけでなく、一定の裁量権を与え、管理部門としての経理部においても成果に応じた評価制度を整えることも重要です。

精神的な支援体制としては、先輩管理職が若手リーダー社員の相談役となり、不安や悩みを共有できる環境を整えることで、管理職への抵抗感を和らげることができます。

中小企業では、機会があるたびに社長が声をかけることが、若手経理社員にとって励みになるものです。

 

社長は若手経理社員に話しかけていますか?

 

経理管理職の育成を支援する仕組みをつくる

今回は、経理社員が管理職を望まない理由とその対策について、説明しました。

 

おさえておくポイントは次の3つです。

・経理管理職の業務を見える化しておく

・会計情報の責任を分散してチェック体制を整える

・段階的に管理職が育つ制度と体制を準備する

 

経理社員の「管理職になりたくない」という声の裏側には、単なるわがままではなく、会社組織の構造的な課題が潜んでいます。

社長としては、社員の声に耳を傾け、育成と支援の仕組みを見直すことが、持続的に成長する組織づくりには欠かせないでしょう。

 

中間管理職が元気に働く職場環境が整備されていますか?

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