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挑戦の決断(15) 華人の政権を取り戻せ(中国明朝を開いた朱元璋)

指導者たる者かくあるべし

 つかみ所のない巨人
 14世紀の半ばの中国、異民族のモンゴル人が築いた元王朝は腐敗が進み国家の統制がきしみ始めた。「華人の政権を取り戻す」を合言葉にモンゴル人から政権を奪取したのが、明の太祖・朱元璋(しゅ・げんしょう)である。
 朱は中国南部、今の安徽(あんき)省の貧農の家に産まれたが、父親は小作地を求めて各地を転々とした。社会の最下層から皇帝に登りつめたのは、漢王朝を開いた劉邦と朱ぐらいなものである。その人となりについては後代の歴史家が、「一人で聖賢と豪傑と盗賊の性格を兼ね備えていた」と評しているほどつかみ所がない男である。
 幼い頃から牧童として働き、寺に小僧として預けられ、3年間の托鉢の旅で諸国を歩いた。物心ついた頃から食うやくわずで世の辛酸を舐め尽くした。
 世に認められるようになるのは、元朝に白蓮教徒たちが武力抗争を挑んだ紅巾軍に身を投じた25歳からだ。親分肌の性格と軍事戦略、政治の才で各地の軍を束ねて元軍を次々と打ち破り、41歳、南京で皇帝に即位し、北伐で元王朝を大都(北京)から追放し中国を華人の手に取り戻した。
 ここからが聖賢の時代となる。
 
 官僚の腐敗が最初の試練
 盗賊のような反乱軍を豪傑として率いて天下を取ったものの、政権運営は元時代の官僚制度を使わざるを得なかった。「モンゴル支配からの脱却」を旗印に戦いを進めてきただけに、彼の元には、元時代に苦渋を舐めてきた江南(中国南部)地区の官僚たちがすり寄ってきた。その官僚たちには江南の大地主たちが賄賂を送り、「われらが皇帝」朱元璋の政権に既得権を認めさせようと群がってきた。
 官僚たちは旧時代に優遇されてきた華北の官僚たちの追い落としを計る。官僚の腐敗と横暴が目に余った。政権を安定させるには、江南出身の官界、地主層と癒着して運営資金を巻き上げることもできたが、朱が目指したのは北部も南部もない大中国の実現である。敢然として腐敗に立ち向かう。貧農出身で地主層の横暴は嫌というほど経験してきた。彼は妥協せず民衆の立場に立って改革を決断する。
 北部出身の官僚は南部に異動させ、南部出身者は北部へ赴任させ、馴染みの地主たちとの癒着を断ち切る。官僚というものは、放置すると業界と癒着し私腹を肥やそうとする。監視が必要なのである。現代も同じだ。
 言うことを聞かない官僚たちは次々と粛清した。
 
 君主専制の確立
 有能な人材登用のために試験による科挙の制度を廃止し、地方の有力者に人材を推薦させた。その人材判定の基準として「徳目」を重視させる。四書五経と詩歌の丸暗記をテストする科挙では、頭は良くても使える人材は得られないことを朱は見抜いていた。
 また、商工人の統制に向けて銀、絹による商業決済を禁じて、政府発行の紙幣と銅銭流通によるクレジット決済を導入する。商取引の国家統制を強めるためだ。
 農村運営についても、隣接する110戸を単位とする里甲制を取り入れ、運営を農民自身に任せた。
 これらの発想は、腐敗を招きかねない地主、富豪、官僚の恣意的な経済、行政運営を断ち、皇帝の名の下に集中させる君主専制の実現を目指している。
 朱元璋の時代に全てが実現したわけではないが、彼が始めたこの試みはその後の中国の国家運営の基礎となった。明朝を倒した女真族の清朝もこの国家運営を継承した。現在の共産中国も同じなのだ。
 政権を奪取するには「豪傑、盗賊」の才が必要だが、制度を発案するのは「聖賢」の技なのだ。
 
 (書き手)宇惠一郎 ueichi@nifty.com
 
 
※参考文献
『明の太祖 朱元璋』壇上寛著 ちくま学芸文庫

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