前回は経営者不正に絡んだ巨額不正につながる手口として循環取引を取り上げました。実は、ほとんどの不正、特に横領は従業員レベルで発生しています。
そこで今回は、売上債権の回収と貸倒れに絡んだ従業員による横領の事例のお話をします。
売上債権、つまり売掛金や未収金は、請求および計上から回収、貸倒れに至るまで、どの段階でも従業員による不正が発生する可能性があります。やはり多いのは、請求書金額の水増しによる着服、不正な値引き処理、貸倒債権の着服などです。
これらの手口と防止・発見方法を簡単な事例を交えてお話します。これらは、きちんとした内部のチェック体制の仕組み、特に職務分掌を徹底することで未然に防止し早期に発見できる事例が大半です。
【ラッピング】
ラッピングとは、埋め合わせ(たらい回し)横領のことを言います。企業は、少し大きくなりますと、記帳担当と回収担当を分けるなど職務分掌が整備されていますが、比較的小規模な営業所などではラッピングの事例が未だに多く発生しています。
そこでラッピングの概要を理解するため事例を単純化してお話します。
甲社から売上債権1000円を小切手で回収したが入金額を抜き取って着服
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甲社に対する入金通知書や領収書、支払督促状などの書類を偽造して隠ぺい
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乙社の売上債権1500円を現金で回収し500円を着服。残りを甲社の口座へ充当
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顧客乙社に対する書類を偽造して隠ぺい
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他社に対しても同様の手口を繰り返す
やはり、小切手や現金を受領するという行為を行わせることが、どうしても、着服に繋がることになります。
基本は振込みです。
このように、売上債権のスキミング(帳簿で入金処理をする前に現金を抜き取る)の隠ぺいに最も頻繁に使用される手口がラッピング(埋め合わせ)です。
自転車操業的にこの行為を繰り返すことが必要になり、横領が発覚するか、または売上債権が貸倒れ処理されるまで続くこととなります。
ですから、一度やったら、本当に止められなくなるのです。そうして、金額が多額になっていきます。
手が込んだケースになりますと、先ほどのように売上債権残高が全額入金されるようなことをしません。
毎月取引が発生することが通常である取引先の売上債権残高は常に変動します。さらに取引先からは内金で入金されることもあるため、この内金を着服することも多いのです。
適切に残高の期日管理をしていないと横領を招きやすい状況となります。
「彼は優秀だし、堅実なので全幅の信頼を置いている」という人ほど危ないかもしれません。
優秀であれば、他の不正の手口を絡めて隠ぺいを図るなど、複雑なスキームとなるのが一般的です。
隠ぺい行為が長期化しますと、着服額を別な売上値引き処理で帳消しにするなど、着服した顧客や金額を管理するために別途不正の記録を残すことが多いものです。
ですから、逆に、発見も容易になってきます。
監査の世界では、必ず、取引の相手方に対して残高確認を行います。当社の売掛金の残と取引先の買掛金の残が一致していない場合が少なくないためです。
また、何でもそうですが、「連番管理」が大事です。領収証などの連番管理を徹底し全ての入金金額と使用した領収書をひも付きで管理できるようにします。
また、回収期日になっても入金されない売上債権を適時に把握して確実に顧客に督促を行うような体制を構築することも必要です。
長期間、回収されない債権は、とくに危険です。
甲社は取引相手乙社の業績が悪化したため、売上債権の回収が不能と判断して債権残高の全額を貸倒れ処理し帳簿上の残高を0円としました。
数年後、甲社との取引がなくなっていた乙社は業績が回復したため過去の甲社に対する債務を返済したのです。
しかし甲社は現在の取引がないことから乙社の現況を把握していなかったことをいいことに、甲社の担当者はこれを利用して帳簿上の入金処理をせずこの返済金を着服したのです。
いったん貸倒れ処理されてしまうと管理が疎かになってしまうものです。貸倒れ処理されれば、回収されることが期待されていないため、このような貸倒れの回収分の着服が多数存在するのです。
貸倒れについても管理台帳が必要になります。台帳には備忘価格で記録しますが、貸倒れ前の債権残高や貸倒れに至った経緯、督促の経過を記録しておくといいでしょう。
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