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Vol.3 なぜ今、ブランドは店舗内に“カフェ”をつくるのか? ─体験価値が購買行動を動かす時代

《ニューヨーク発》ビジネスリーダーの先読み: 最新トレンドと戦略拠点

“再訪されるリアル”──五感を通じて再発見されるブランドの価値
ニューヨークの街を歩いていると、興味深い現象に出くわす。Louis Vuitton、Uniqlo、Alexander Wangなどを始め、ローカルブランド、価格帯もターゲットも全く異なるファッションブランドが、こぞって店舗内にカフェを併設している。「またブランドレストランのブームか?」と思う人もいるかもしれない。しかし、実は今回の動きは、2000年代から2010年代に見られた「ブランド世界観演出」としてのレストランとは根本的に異なる。これは、コロナ禍を経て消費者行動が劇的に変化した現在だからこそ生まれた、戦略的な現象だ。

変わったのは「目的」そのもの
従来のブランドレストランは、高級感や洗練された世界観を演出するためのPR手法だった。また、店舗とは別のフロアや枠組み、もしくは別の箱としてレストランが作られていた。しかし現在のニューヨークで展開されているカフェは、店舗内に作られており、明確に「店舗訪問のハードル低減化」「滞在時間の最大化」と「ブランド体験の深化」を狙った仕組みとして機能している。

今回からいくつかの事例を順に紹介していこう。ニューヨークを訪問する機会があれば、実際に体験してみるのもおすすめだ。「食」としての楽しみと、「ビジネス視点での気づき」が一緒に得られる場になっている。

改装工事中のLouis Vuittonに出現したカフェ
今回は、このような動きの一例としてLouis Vuitton(以降LVとする)のテンポラリーストア店内に設けられた『Le Café Louis Vuitton』を挙げてみよう。

Photo: Niena Etsuko Hino
改装中のLouis Vuittonフラッグシップストア。
LVのモノグラムトランクで覆ってしまうという大胆な見せ方。

Photo: Niena Etsuko Hino
改装工事中だからこそできる手法
5th Avenueと57th Streetの角に、LVの存在を示し続ける
Photo: Niena Etsuko Hino
LVのテンポラリーストア。
Tiffanyのリニューアルの際もこの場所がテンポラリーストアとして利用された。ずっと以前は、Nike Townだった場所。

2024年11月15日、LVは五番街にあるフラッグシップストアの数年にわたる改装のため、57丁目東6番地に広大なテンポラリーストアをオープンした。同店4階に設けられた「Le Café Louis Vuitton」は、LVの文化的インスピレーションに満ちたカフェ兼ライブラリー空間として作られており、その雰囲気にゆったりと浸ることができる設計となっている。メニューには、トリュフ入り卵料理やキャビア添えのワッフルなどのシグニチャーメニューをはじめとした料理が並んでいる。

Le Café Louis VuittonのInstagramから
https://www.instagram.com/lvcafenyc

ここで重要なのは、カフェでの体験が商品購入の「前段階」として機能することを踏まえて設定されていることである。

実際、このようなブランド体験型の空間では、顧客の滞在時間が長くなるほど購買率が高まる傾向がある。Harvard Business Reviewの報告によれば、滞在時間と購買行動には明確な相関があるとの報告がされている。また、McKinsey & Companyの調査でも、顧客体験(CX)を重視する企業ほど、売上やリピート購入といった財務指標の向上が見られるという。

出典:
• Harvard Business Review, A Study of 46,000 Shoppers Shows That Omnichannel Retailing Works

https://hbr.org/2017/01/a-study-of-46000-shoppers-shows-that-omnichannel-retailing-works

• McKinsey & Company, Experience-led growth: A new way to create value

https://www.mckinsey.com/capabilities/growth-marketing-and-sales/our-insights/experience-led-growth-a-new-way-to-create-value

事実、筆者自身、従来LVのアイテムを自ら進んで身につけることはなく、故にわざわざLVの店舗に足をはこぶ目的を持ち合わせていない。しかし、このようにカフェができたと聞けば、機会があれば試してみる場所の選択肢に入ってくる。

「お茶をしながら一休みする」人の数は、LVに限らずブランドショップに行く人(買い物も含め)の数より圧倒的に多い。そこに「カフェがある」と知れば、「ちょっと行ってみようか」という気持ちが生まれる。関心の入り口は、“必要だから”だけではなく、“なんとなく気になる”からにも存在する。

これまでLVを自分の選択肢に入れていなかった人や、先入観から敬遠していた人でも、「お茶でもしてみようかな」と思わせることで店舗に足を運ぶ動線が生まれる。そこから「こんな商品もあるのか」と知ってもらうチャンスが生まれる。また、以前はやったブランド・レストランのスタイルだと、食事をするイメージが強く、「機会があれば行ってみる」までの時間はかなり長くなる。カフェであれば、食事もあるしお茶だけでも良いのが全面に出ており、利用目的のハードルが低くなる為、人々が試しやすくなるのだ。

また、LVの店舗内にあるカフェなのだから、そこに足を踏み入れることに正当性のある人か否かの選別も可能。しかも、メニューの価格もそれなりであるため、それをよしとして楽しめる人々か否かの振り分けもできる。むやみに誰にでもきてもらうのではなく、顧客候補になりうる人々をうまく判別できるわけだ。

ミッドタウンの57丁目、LVの店内。そこは、何となくコーヒーが飲みたくてふらりと立ち寄るようなカフェではない。だからこそ、人の流れに自然と選別がかかり、LVが求めるような雰囲気や距離感が保たれる。「お茶をする」という行動を通じて、そのブランドに少し触れてみる。そんな体験の場になっている。

人の三大欲求の1つである「食欲」の中でも、「お茶をする」という一息つきリラックスする環境の提供を、そのブランド世界観の中で体験させることができたら、それまで見えていなかったブランドの魅力に気づかせることができるはずだ。

Niena’s Cut
ブランド価値を伝えるのは、商品そのものにとどまらない。どのような空間をつくり、どう過ごしてもらうか。その時間を通じて何を感じてもらえるか。そこに込められたメッセージの積み重ねこそが、ブランドの信頼や共感を育てていく基盤になる。

今回のLVのような「体験」や「滞在」を軸にした仕掛けは、ファッションに限らずさまざまな業種で応用が可能だ。「ちょっと寄ってみたい」と思わせる仕組みをどう実現するか。その視点を持つだけで、これまでにない顧客との接点や、新たな関係構築のヒントが見えてくるはずだ。

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