近年、ニューヨーク、否、世界的な音楽シーンのトレンドにおいて、特に目立つ流れが2つある。一つはアナログレコードへの回帰、もう一つは1980年代から90年代にかけての日本のシティポップのリバイバル。
この2つの潮流が重なり合い、特にパンデミック中からニーズが高まり、現在は遠方から訪問してくるお客さんや、コアなファンを掴んでいる業態がある。それは、日本発祥の有名な中古レコード店の海外初の店舗、FACE Records NYCだ。
アナログレコードへの回帰
デジタル音楽の普及により一時期姿を消しつつあったアナログレコードだが、ここ数年で再注目されている。特に、デジタルの音が耳に鋭すぎると感じる人たちの中で、レコードの温かみや深み、丸みのある音質を好む人が増えている。
また、レコードジャケットのアートワークやコレクターズアイテムとしての価値も評価され、特に若い世代の間で人気が高まっているのだ。この流れは、アナログレコードの売り上げが年々増加し、中古レコード価格も高くなっていることからも明らかだ。
シティポップのブーム
シティポップと呼ばれるジャンルの音楽が数年前から大ブームとなっている。筆者がそれを知ったのは、かれこれ5〜6年前、アメリカ人の若者から「竹内まりやの『プラスチック・ラブ』や山下達郎の音楽が自分たちの周りで流行っている」と聞いたときだった。
このシティポップとは、1980年代から90年代にかけて日本で流行した都会的で洗練されたポップミュージックのジャンル。
その軽快なリズムやメロディ、そして豊かな時代を反映したファッション性が、現代の若者たちに新鮮に映っているのだ。それは、日本にとどまらず、筆者が住むアメリカでも。特に、YouTubeなどのストリーミングサービスでの再生回数が急増し、シティポップの再評価が進んでいる。
FACE Records NYC人気
この流れの融合を象徴するかのような存在が、ニューヨークにあるFACE Records NYC。FACE Recordsは、1994年に東京で創業された老舗の中古レコード店で、膨大な数の中古レコードを取り扱っており、コレクターや音楽愛好家にとって宝箱のような場所。展開は日本国内に6店舗(General Record Storeも含む)。
そして日本国外初で唯一の店舗であるFACE Record NYCは、ニューヨークだけでなく、他州においても日本のシティポップを中心としたアナログレコードの取り扱いでは他の追随を許さない唯一無二のショップだ。
その豊富な種類と商品の状態の良さから、ニューヨークだけでなく他州からも音楽ファンが訪れている。NY店のジェネラルマネージャー間宮氏によると、パンデミック中にオンラインでの売り上げが急増したそう。
自宅で過ごす時間の中で、オンラインのストリーミングで耳にして、気に入ったシティポップの曲がきっかけとなり、そのミュージシャンの他の曲にも興味をもち、その曲ができた当時の空気感も味わうことのできるレコードを入手しようという人が増えたのだろう。そして、パンデミック後には、オンラインで購入した人たちが実店舗を訪れるようになったのだ。
店内には、シティポップをはじめ、日本の80年代90年代ジャズやフュージョン、アニメのレコードなどの希少な名盤が並び、訪れるお客さん達は、自分の目的の1枚を探すだけでなく、新たな音楽との出会いを求めて店内での時間を楽しんでいる。
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