Sohoで生まれた異色のポップアップ
2025年5月、ニューヨーク・SohoにあるAlexander Wangの旗艦店に、期間限定で「HEYTEA」とのコラボカフェが出現した。中国発の人気バブルティーブランドとの組み合わせは、その視覚的インパクトにより、SNS上ではすぐに話題をさらった。
筆者自身が最初に目にしたのもInstagramの動画だった。メタリック調の店内、風船のように膨らんだ大きな泡のようなものを纏ったドリンクのカップは、明らかに「飲むためだけではない」存在感を放っていた。それがフルフルと揺れている動画に目が奪われ、思わず足を運ぶことにしたのだ。
Sohoの店舗の外観は洗練されつつもシンプルで、内部はシルバーメタリックを基調にしたミニマルな空間だ。その奥まった場所にメタリックな壁に囲まれた一角があり、そこにHEYTEAのポップアップカフェが設置されていた。近未来的とも宇宙的とも言える空間だ。


「映える仕掛け」がニュースをつくる
このポップアップに仕掛けられていたのは、人が拾いやすく「映える」ことを前提にデザインされた演出だ。
• 長い黒髪をなびかせお茶を飲む、イラスト化されたAlexander Wang本人の横顔ロゴ
• スモーキーな泡が浮かび上がるスーパーフードドリンク
• Alexsander Wang限定ティー缶やドリンク用のトートバッグ
これらは「飲む」「買う」ためのプロダクトであると同時に、撮影してSNSで拡散されることを前提に設計されたもの。実際に訪れた人々がスマートフォンを構え、その場でUGC(ユーザー生成コンテンツ)を次々と生み出せる仕組みなのだ。
広告を打つのではなく、空間自体を宣伝媒体に変えるのが、このポップアップの本質だ。
https://www.instagram.com/p/DKPSAZMOqZp/
https://www.instagram.com/p/DJwrGrDu99p/
リール
https://www.instagram.com/reel/DJISCyiSjHU/
https://www.instagram.com/reel/DJIa0Cztqrd/
https://www.instagram.com/reel/DJKAFEdRugB/
ブランド同士の「顔」を重ねる戦略
特に象徴的だったのは、HEYTEAのロゴを差し替えた点だ。HEYTEAのロゴは、「少年がストローでお茶を飲む横顔」で知られている。しかし今回のポップアップでは、その横顔がAlexander Wang本人のイラストへと置き換えられていた。

ロゴはブランドの「顔」であり、最も守られるべきアイコンだ。そのロゴをあえて変えることで、「ブランドのアイデンティティを重ね合わせ、いわば“共犯関係”」を示し、両者が一体化して「ニュースを生む姿勢と空間」を演出したと言える。
HEYTEAという「コラボ巧者」
ここで重要なのは、なぜHEYTEAだったのか、という点だ。HEYTEAは創業以来、ただのお茶ブランドに留まらず、「コラボレーションを通じて自己拡張するブランド」として存在感を築いている。
HEYTEA Instagram
https://www.instagram.com/heytea.usa
日本の皆さんにもわかりやすい例としては、草間彌生とのコラボレーションがある。
例)Kusama Yayoi コラボレーション
https://www.instagram.com/reel/DEkqdbiPQk6/
https://www.instagram.com/reel/DEnJseXOZpR/
これらの事例に共通するのは、相手の世界観をHEYTEAが自らのロゴや商品に柔軟に組み込み、ニュース化していく力である。
Alexander Wangにとっても、その「変容力」と「拡散力」は、組むための大きな魅力だったことだろう。だからこそ、HEYTEAが選ばれたのである。
Alexander Wangのブランド軸と必然性
Alexander Wangというブランドは、ハイエンドなラグジュアリーの安定感よりも、挑発性・瞬発力・独自の世界観・ニュース性を軸に成り立っている。NYカルチャーとの親和性を武器に、「話題をつくる」ことで注目を集めてきた。
昨今Sohoの店舗をリニューアルし、店舗内にポップアップでカフェを展開できるスペースを作った。その第一弾としてHEYTEAとのコラボが行われたわけだ。
Louis VuittonやUNIQLOのような「常設カフェ」を店舗に組み込むのではなく、むしろ、短期的な仕掛けを繰り返し、毎回新しいニュースをつくる戦略だ。確かにAlexsander Wangには適しており、合理的と言える。カフェが展開できるだけの機能を持ったスペースがあれば、飲料オペレーションをコラボレーション先に任せることで、Wangは空間演出に専念できる。自社の強みを最大限に生かし、持っていない部分明確にし、それを得意とする、ブランドの根幹にあるテーマと親和性のあるパートナーで補う。コラボレーションの巧みさはここにもある。
ビジネス的ヒントは?
ここで、ビジネス的ヒントを整理しておきたい。
• 固定投資をせずにニュースをつくる
常設の大規模なカフェをつくらなくても、期間限定やコラボレーションを取り入れることで十分に話題化できる。
• 異業種コラボの応用
飲食に限らず、自社のロゴやシンボルを相手の世界観に合わせて一時的に変えるだけで拡散のきっかけになる。
• SNS映えを前提に設計する
実はこの点がに非常に大切だ。大規模な内装投資をしなくても、見せ方の技術を巧みに使い、フォトスポットや限定パッケージといった小さな仕掛けで「共有される理由」を生み出せる。
この3点目、やっているようでいてできていないケースが多々あることを、様々な場で実感している。ありがちなのが、設定はしているつもりなのだろうが、写真を撮ると、いや、写真を撮ろうとして画面を見ると、どう構えても構図が悪いというケースだ。普通の人がそのものをフォロジェニックにとれる作りを提供する不努力がされていないのだ。これはフォロブースや限定パッケージがあったとしても本末転倒。そのために、もういいやと写真を撮ることを諦めてしまう人もいれば、とりあえず撮るけど、結局投稿しない判断となってしまうこともある。つまり、離脱者を出してしまう作りであることをブランド側がわかってないからなのだ。これはまた別のコラムで分析解説しよう。
これは大企業だけの戦略ではない。規模の大小を問わず、自社空間をニュース化する工夫は実現できるのだ。
Niena’s Cut
Alexander Wang × HEYTEAのコラボが示したのは、アパレル店内のカフェ空間は「滞在の場」ではなく、「拡散されるための場」へ進化しているという現実だ。
常設にするかどうかが重要なのではない。大切なのは、ブランドの強みと弱みを見極め、最適なパートナーと組み、飲料という日常にある身近なもの介在させて、近づくきっかけを作り、ちょっとした驚きと満足を与える機会と空間を設計することで、ニュース発信の装置にできるかどうか。
ニューヨークで起きていることは、日本の企業にも十分応用できる。固定投資に縛られることなく、異業種との柔軟なコラボやSNS映えする小さな仕掛けで、自社の空間を“メディア”に変えることができるのだ。
カフェ空間は売場であると同時に、多くの人にとって日常との交差点であり、気になるニュースを生み出し発信するメディアになる。その発想を持てるかどうかが、これからのブランド戦略の分かれ目になるだろう。
































