【意味】
言葉が巧みでこびへつらう者は、仁徳の備わっていない人物である。
【解説】
このような句に接すると、「言葉巧みに人をだます人=詐欺師」を連想します。
法律的な詐欺とは、他人を欺いて錯誤に陥らせる行為となります。最近の詐欺はネット活用詐欺や振り込め詐欺などのように組織的な犯罪になり、極めて陰湿かつ悪質です。
一昔前には各地域に、事件を繰り返す言葉巧みな本物の詐欺師や詐欺師すれすれの行為を行う人物がいたものでした。随分昔になりますが、筆者は2人の詐欺の名人と、生い立ちから事件に至った経過までをじっくりと話し合った経験があります。詐欺師の肩を持つ訳ではないですが、筆者が対話した夫々の相手は実に見事にこちらの警戒心や不信感を解消してしまう人物で、人間学的には大変興味深い人種でした。
昔から「天性の商売人」などと称し、商売で儲けた人を若干の妬みを以て表現しますが、詐欺師も「天性のペテン師」などといわれます。人当たりの良さと言葉巧みの素養(巧言令色)があるから、直ぐに相手の心に入り込み警戒心を取り除いてしまいます。この能力は努力して備わるものではないから、天性のものなのでしょうか。
こちら側も詐欺師相手と承知して話をするのですが、何れの詐欺師も頭の回転がよく言葉も巧みですから、一時間も話しているうちに警戒心が消え、更に話を続けますと友達にしたいような気持になってきます。事実一人は別れ際に「私のような者の話を聞いてくださり心から感激しています。一生のお願いですからこれからも仲良くしてください」と言い出す始末でした。「益者三友、損者三友」(論語)という言葉もありますが、ここまで慕ってくれれば詐欺師の友人一人ぐらいはと思えてしまうから、見事です。
このように一見すると好人物の者が、どうして常連詐欺師になったかを分析してみます。
まず一つの特徴は、世話好きで相手に拒否的な発言ができないから、後々の責任を考えないでその場しのぎの約束をしてしまう。約束をした時点では、本人も詐欺をするなどと少しも思っていない。自分で自分を騙す処が名人たる所以であるが、結果として約束不履行として事件になる。最初から騙す計画では相手に警戒されるから、本人も当初段階では詐欺する気持ちも無い。だからこそ多くの人々が表面上の人柄の良さに騙されてしまう。
もう一つの特徴は、自分の起こした過去の事件に対して、責任感や嫌悪感が微塵もない。前科があろうとなかろうと無頓着で楽天主義の権化のような人々だから、自制心も無く再び事件を繰り返してしまう。
掲句は「巧言令色なる人物」を批判していますが、商売の世界では(1)売主は商品の効用を言葉巧みに説明し、(2)買主はその効用を信じて支払いの固い約束をします。しかし相互のその効用や支払いに嘘があれば、通常の商売でも詐欺行為になりかねません。
多くの商売人はまさか「自分が詐欺師になる」とは思っていませんが、企業倒産で借金が残れば一種の借金詐欺となります。一歩間違えば、商売の世界ではこのように詐欺に転じる危険が潜んでいますから、一つひとつの取引を誠実に履行することが大切になるのです。