多くの企業(お店)が、"こだわり"があるにもかかわらず、オンリーワンになれないのは、ポジショニングを獲得し、ブランドを構築することで、利益を生み続ける(=経営を継続させる)仕組みを確立できず、ブランドを浸透させるための期間(大体3年間)、企業(お店)が存続できないからです。
利益を生み続ける企業(お店)には、必ず"こだわり"を遂行する過程で、大義を掲げ、現場の情熱(=エネルギー)を生み出すことで、経営理念を軸に企業風土を戦術化し、オンリーワンのポジションで利益を生み続けることができる経営者が存在しています。
そこで今回から全三回シリーズにて、"こだわり"を<ここしかない、今しかない、私しかないという-売れる仕組みと取り組み>と<独自性・賑わい・調和(組み合わせ)-買いたくなる仕組みと取り組み>に結びつけ、企業風土を戦術化した経営者だけが実践した経営判断を、実践事例で解説いたします。
-フィロソフィー(企業理念)~
経営理念とは、経営者の経営信条を表すもので、多くの場合創業者によって定められるのですが、新生JALは、再起をかけ、稲盛氏の経営哲学を軸にしたフィロソフィー(企業理念=経営理念を企業に置き換えたもの)をシンプルに現場に浸透させることで、破綻後の再上場を可能にしました。
赤字路線からの撤退、人員削減、運営効率の悪い航空機材の処分、借金の大幅圧縮とパイロットのコストダウンなどを含め、再上場を果たしたJALは現在2012年破綻前の6割程度の利益(2000億円)を稼ぎ出すに至っていますが、
フィロソフィー(企業理念)を現場に浸透させることに成功した要因は何なのでしょうか?
<フィロソフィー(企業理念)を事業ドメインにする>
デフレの中、飛行機は単なる交通手段で終わるのか?という命題を突きつけられたJALは、交通手段だけではない新たな付加価値をフィロソフィー(企業理念)を軸に現場の意識改革に挑むのですが、その核となるのはフィロソフィー(企業理念)の戦略化でした。
戦略とは、"やらない"ことを決めること、つまり会社でいうと<事業ドメイン>(組織が経営活動を行う基本的な領域のこと)を確定させることで、JALは以下のように<事業ドメイン>("やらない"こと)を絞り込んだのです。
JALの戦略<事業ドメイン>とは?
同社は、フィロソフィー(企業理念)を現場の共通言語<全社員の物心両面の幸福を追求する>に置き換え、戦略を"やらないこと"と定義、次の3つに具体化し、現場と共有しました。
その1・つながりを重視しないことは、やらない
JALが会社を建て直すことだけで経営判断したとすれば、スカイチーム(デルタ航空)との提携でネットワークの多角化を選択したはずですが、これまでのビジネスパートナーであるアメリカン航空との提携を維持したことで現場社員は、利益至上主義ではない会社JALに信頼をよせ、現場が一つにまとまった
その2・価値共有できない価格は、やらない
JALは、フルサービス(価格だけで勝負しない)の航空会社として、再利用(リピート)意向と他者推奨(他者に奨めたい)意向という2項目に絞り、会社の付加価値を見える化(評価基準)し、社員が納得できるサービスとは何かを現場に考えさせ、現場が自主的に納得する値ごろ感(価格)を確立することで、自主的(会社にやらされていない)なコスト意識を現場に植え付けた
その3・高収益をかなえないことは、やらない
JALは再生後の中期計画の指標に、搭乗前の期待と品質に対する評価を掲げ、JALブランドで現場をワクワクさせる仕組みを構築することで、現場が会社の目標(高収益体質にする)を目指すことで、やる気を促した
JALがブランドであったことは事実です。が、逆に現場がJALというブランドに胡坐をかいたことが破綻の原因になったことも事実です。
上述した3つのやらないことは、JALブランドを重視し、武器としつつも、JALの現場に原価意識と戦略が培われなければ再生後、再上場後成長できないことを明言しています。
フィロソフィー(企業理念)を軸に、それを具体化することで事業ドメインにまで具体化できれば、現場は自主性で利益を志向し、動くようになるのです。
※ コンサルティング事例検証
現在コンサルティングしている大阪にある封筒工場は、封筒を主にはがきやパンフレットなどを製本し、エンドユーザーではなく、業者に納入しています。
同社のフィロソフィーは、<共存・共栄・共生>で、このフィロソフィーは以下の3つに具体化しています。
・ 一方的に有利な取引は長続きしない
・ 相手の利益を第一に考える。先に自分の利益を考えてはいけない
・ 相手の立場に立って物事を考えることで相手や自分ひいては社会の幸せに貢献できる
コンサルティングの過程で、現場リーダー(工場と営業)が集まり、こちらからヒントを与え、生き残り、勝ち残るための商品を、現場主体で考えてもらったところ、紆余曲折がありましたが、現場が自主的にムダ・ムラ・ムリをなくし、"利益を生み出す商品"を現場が創意工夫で生み出すことに成功した結果、取引先企業に、同社のブランド<引き出しの多いこだわりのサービス>(付加価値商品)である強みを発揮できる商品に誘導できる道筋が見えてきました。
私は当初のコンサルティングでは、企業理念から紐解き、現場の士気を向上させる考えでしたが、ふたを開けてみると、現場は企業理念には興味を示さず、「なぜ工場は稼動しているのに?利益がいつもでていないのか?」という苛立ちで一杯でした。
その後コンサルティングを続ける過程で、現場との信頼関係が築け、コンサルティング最終段階で、現場から、「勝負したい=売りたい商品(つまり"売り商品")」を提示してくれたのでした。
売りたい商品とは=フィロソフィーに沿った商品(相手の利益を第一に考える)であり、現場の出した答え(売りたい商品)は、最後は経営者の思う企業の存在意義でもあったのでした。
企業理念を現場に浸透させることとは、実はフィロソフィーありきではなく、
フィロソフィーを忘れず、現場が必死になり、答え(売りたい商品)を見つけ出すことなのです。