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しかし、業績改善への期待から満額回答が相次いだ昨年とは様変わり。今年の月例給与に関する回答で、多くが3年連続のベースアップ(ベア)は実現したものの、金額では前年を大幅に割り込むなど、上げ幅は低調な結果となっています。
年明け以降の株安や円高といった経営環境の悪化に加えて、先行きへの不透明感が春闘相場を冷す格好となりました。デフレ脱却と経済の好循環に向けて安倍晋三政権が経済界に強く要請した「賃上げ圧力」にも、月例賃金のベアに限って言えば限界があったのかもしれません。
相場をけん引するトヨタ自動車のベア交渉は、前年実績を2500円下回る月額1500円で妥結しました。トヨタの今年3月期連結純利益は、過去最高になると予想されています。にもかかわらず、ベア額は業績の振るわなかった企業も多い電機大手と同額でした。グローバルに事業展開するトヨタの慎重な姿勢は、景気の先行きに対する懸念を印象付けます。
日本銀行によるマイナス金利政策の導入を受ける形で、収益環境の悪化を警戒し、三菱東京UFJ銀行、三井住友銀行、みずほフィナンシャルグループの各労働組合がベースアップの要求を見送る方針を固めました。
一方、今春闘で労組側が非正規社員を含む賃金の底上げと格差是正を真正面に掲げ、経営側も非正規社員の時給引き上げに応じたことは注目に値します。トヨタは非正規の期間従業員の日給を、労組側の要求通り150円引き上げると回答。非正規社員の待遇改善の動きが今春闘を特徴付けています。
大手の集中回答を経て、慢性的な人不足が懸念される中小・地場企業の給与改定はこれから本番を迎えます。
そうした中で異色の事例を最後に紹介したいと思います。味の素は、月額給与を一律に底上げするベースアップを2年連続で実施してきましたが、2016年の春闘交渉では、労働組合側がワークライフバランスの推進のため、労働時間の短縮を求めたことを受けて、所定労働時間を1日20分短縮すると回答しました。
労働時間を1日20分短縮しながら基本給を維持することは、実質的には月1万4000円以上のベアに相当すると試算しています。現在の所定労働時間7時間35分を、2017年4月からは7時間15分にする。対象は管理職を除く社員約2500人で、1人当たり年間80時間の短縮になるそうです。同社は子育て中の人や外国人、障害者らが働きやすい環境を整え、多様な人材の確保に役立てたいと説明。一日の終業時刻を早める方向で調整するとのことです。