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- 中小企業の新たな法律リスク
- 第50回 『デザイン家具の輸入』
東京都内でヨーロッパの有名なデザイン家具の輸入販売をしている春田社長が、賛多弁護士のところにやってきました。
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春田社長:私の店は、正規代理店にはならず、並行輸入でヨーロッパのデザイン家具を仕入れて、インターネットで販売しています。昨年からのステイ・ホームの広がりで販売はとても好調ですが、最近、私の店のインターネットのホームページを見たと思われるヨーロッパの家具メーカーから、商標権侵害や著作権侵害で法的措置も辞さないという厳しい内容の警告書が届きました。たしかに私の店はヨーロッパのメーカーとの間で代理店契約を締結しておらず商標のライセンスも受けていないのですが、これは違法なのでしょうか。
賛多弁護士:社長のお店の家具はかっこいいですね。私も自宅で使っています。さて、まず著作権ですが、社長のお店の家具は真正商品の並行輸入ですので、著作権については侵害していないことになりますね。
春田社長:商標権についてはどうでしょうか。
賛多弁護士:商標(ブランド)の権利を有するメーカーが日本でも商標登録をしている場合、指定商品、この場合は家具ですが、その家具についてブランド名を使用する権利はそのメーカーとメーカーからライセンスを受けた代理店にしかありません。したがって、外国から正規品を並行輸入した場合、家具にはそのブランドが付けられていますから、商標権の侵害になるようにも思えます。しかし、平成15年に最高裁で判決があったフレッドペリー事件で、「いわゆる真正商品の並行輸入」については、商標権侵害にならないことになったのです。
春田社長:そうすると、私の店の家具は海外で正規品を仕入れたものですので、問題ないということでしょうか。
賛多弁護士:判例は、「いわゆる真正商品の並行輸入」に当たる場合としての要件を挙げただけですから、この条件に当たるかどうかは弁護士に確認した方がいいですね。ちなみに、社長の店のものは問題ありませんね。
春田社長:よかったです。では警告書に対してはどのような対応をしたらよいでしょうか。
賛多弁護士:いま説明した内容を書面で回答したらよいと思います。よろしければ私が書きましょうか。
春田社長:ありがとうございます。よろしくお願いいたします!これで安心して家具を売れますね。
賛多弁護士:私も社長の店のソファでゆっくりできます。
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並行輸入は、ブランドメーカーから見れば、自社の商標を自社以外に使われることになります。ブランド戦略的にも悩ましいところがあるのも事実です。
しかし、会話の中に出てきた最高裁判例(フレッドペリー事件・最判平成15年2月27日民集57巻2号125頁)は、①当該商標が外国における商標権者又は当該商標権者から使用許諾を受けた者により適法に付されたものであり、②当該外国における商標権者と我が国の商標権者とが同一人であるか又は法律的若しくは経済的に同一人と同視し得るような関係があることにより、当該商標が我が国の登録商標と同一の出所を表示するものであって、③我が国の商標権者が直接的に又は間接的に当該商品の品質管理を行い得る立場にあることから、当該商品と我が国の商標権者が登録商標を付した商品とが当該登録商標の保証する品質において実質的に差異がないと評価される場合という条件を挙げて、いわゆる並行輸入が商標権侵害としての違法性を欠く場合であるとしました。
また、家具については、いわゆる「ジェネリック家具」という有名なデザインの家具と似たデザインの家具を別のメーカーが製作するものが問題になることもあります。
ヨーロッパでは家具に著作権が認められることがあるのですが、我が国では家具のデザインには著作権がなかなか認められません。意匠登録をすればよいのですが、著作権法の保護対象を議論する中で、著作権をより広く認めるべきだという議論もあるところです。
執筆:鳥飼総合法律事務所 弁護士 竹内 亮