「在庫が増えれば利益が増える」とよく言いますが、在庫は売上原価、製造原価に含めないため、そのぶん損金にできず流動資産に積み上がり、粗利益(売上総利益)が大きくなるので、このように言われるのです。
参考までに粗利益を算出する式を書いておきます。
ところで、この在庫、棚卸で利益の調整ができてしまいます。利益を減らして納税額を少なくしたいときは、最終仕入単価を下げてその商品や材料の棚卸総額を減らすとか、不良在庫をたたき売りすることで、利益を減らすことができます。利益の粉飾をしたければ逆のことをやればいいわけです。
たとえば、銀行借入のために決算内容をよく見せようとして企業が棚卸による利益の調整を行った場合でも、銀行は財務の実態を把握しようとするのでそれほどの効果は期待できないのです。
めったにないことですが、銀行から3期分の棚卸表を要求された場合などは、個別在庫の数量の変化から不良在庫を特定し、実態に近い財務内容を推測することができるので、その結果、資産の金額が減少して見せかけの利益が無くなり企業財務の実態がばれてしまうこともあります。
ただ、銀行がそこまでの作業をするのはごくまれで、与信上の大きな問題がある場合に限られます。
では、逆に利益を減らす場合はどうかというと、
多くの企業では棚卸は最終仕入原価法という やり方で行われています。同一商品・材料なら期末から最も近い時に仕入れた単価で評価するというものです。
最後に仕入れるモノをいつもより安く仕入れれば、期末在庫の金額は少なくなり、流動資産の金額が圧縮されます。
たとえば、通常は単価2,000円で仕入れている材料で、それが期末に500個あったとします。棚卸金額は1,000,000円になるわけですが、 最後に単価200円で1個仕入れたとすると、棚卸金額は200円×(500個+1個)で100,200円になってしまいます。
これでいっきに899,800円(1,000,000円ー100,200円)の資産を減らし、それに連動して利益を減らしたことになります。
不良資産の低価売却も同じような効果を生みます。
ただ、これらをやったことがある企業ならわかると思いますが、対象の商品、材料選びを間違えると後でたいへんなことになります。
頻繁に購入する商品、材料で最終仕入れ単価を調整した場合、在庫管理をしたうえで翌年も同じことをやらないと、資産が増え、利益がいっきに増えてしまうのです。
一般に知られている節税策のほとんどが繰り延べといわれ、運用にあたり知識を要求されますが、このての節税も経理、会計の細かい部分を理解していないと思わぬ落とし穴にはまります。