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- 中小企業の新たな法律リスク
- 第36回 『電子契約の導入に向けて』
2020年は、新型コロナウイルスの感染拡大によりテレワークが急速に普及し、企業実務に大変革がもたらされています。特に契約書締結実務については、押印や郵送のため従業員の出勤が余儀なくされることから、電子契約サービスの導入する企業が急速に増えています。
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太田社長:賛多先生、ご無沙汰しています!
賛多弁護士:こんにちは。ウェブ会議ですが、面と向かって話すのは久しぶりですね。太田社長のところも、テレワークが中心ですか?
太田社長:はい。緊急事態宣言が発令されて以降、原則として私も含めた全役員・全従業員がテレワークを行っています。このような働き方が今後は定着していくと思うので、オフィスを縮小してコストの削減を考えています。
賛多弁護士:それは、いいですね。しかし、業務は問題なく回っていますか?
太田社長:業務のほとんどは、クラウドシステム上で行えるので、在宅勤務でも特に問題ありません。ただ、紙の書類に関わる業務、特に契約書の製本、押印、郵送については、その都度従業員に出勤してもらっています。
賛多弁護士:電子契約サービスの導入は検討されていますか?
太田社長:検討はしているのですが、果たして導入のメリットがあるのか、導入するとして社内体制をどのように整備すればよいのかがよく分からないのです。
賛多弁護士:電子契約を導入すれば、例えば、契約書の製本、押印、郵送、保管等の手間が省けて検索が容易になる他にも、印紙代を削減することができます。
太田社長:印紙を貼らなくていいのですか?それはいいですね。我が社は印紙を貼らなければならない契約書が多いので、かなりのコスト削減になりそうです。電子契約ってそもそも法律的に問題はないのでしょうか?
賛多弁護士:ほとんどの場合は、問題は生じません。ただし、完全ではありません。たとえば、オンライン上で電子契約に署名(タイピング)された名前の担当者とは別の者が勝手に電子契約に署名したり、電子契約に署名した担当者が契約締結の決裁を得ていなかったりすると、裁判になった時、証拠として認められないこともあります。
太田社長:そうすると、やはり紙で契約しておいた方が良いのでしょうか?
賛多弁護士:いいえ、私はそこまでリスクを恐れる必要はないと考えています。合意前後の経緯に関するメールのやりとり、契約に付随する資料(請求書、納品書、検収書、確認書等)の送受信記録を残して不審な点はないか確認し、相手方担当者に対して契約締結の社内決裁を経たかを確認しておけば、相手方において権限のない者が勝手に電子契約してしまうようなことは考えられないと思います。それがたとえ新規に取引する相手方であっても、名刺や本人確認資料(運転免許証)も確認し、取引に関して詳細に話を詰めておけば、相手方担当者が契約締結権限のある者なのか十分確認可能であると思います。
太田社長:なるほど、契約や相手方担当者に関する記録・資料を残しておくことが重要なのですね。
賛多弁護士:その通りです。社内的には、文書管理規程や印章管理規程といった内部規程も、電子契約を前提とした規程を追加しておきましょう。こちらは私の方で対応可能です。
太田社長:ありがとうございます。電子契約で取引ができれば、従業員も滞りなくテレワークができて喜ぶはずです。
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電子契約を提供している事業者は十数社あり、事業者ごとに特色や機能が異なります。電子契約の種類も、メールアドレスの認証だけで済むものと、法人実印と同じ程度の本人確認を行うものがあり、後者の方が証拠としての効力が強固です。(ただし、迅速性に欠けます)
そのため、どの事業者を選んで良いかお悩みの企業も多いかと思いますが、スムーズな導入を目指す観点からは、自社の契約書の類型・締結数や業務フローに最も適したサービスを提供している事業者を利用するのが重要です。
注)令和2年6月19日付けで内閣府、法務省、総務省から発出された「押印についてのQ&A」(http://www.moj.go.jp/content/001322410.pdf)において、電子契約の法律上の取扱いについて解説されています。解説されている内容は、従前からの裁判実務における考え方を平易な言葉で説明・確認するものにすぎませんので、法務省の見解が電子契約の普及によって変更されたわけではありません。
執筆:鳥飼総合法律事務所 弁護士 古橋 翼