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人間学・古典

第90講 「帝王学その40」
人主の侈心を生ぜんを恐るる。

先人の名句名言の教え 東洋思想に学ぶ経営学


【意味】
(和睦し辺境の心配が無くなれば)帝の気の緩みが生じ、贅沢になることを恐れる 。



【解説】
「宋名臣言行録」からのものです。
侈心(シシン)とは、奢侈(シャシ)の意から贅沢のことになります。
宋王朝の最大の外交課題は、北方民族の対策でした。掲句は、その北方民族の1つ契丹(キッタン)民族と和睦をした時の宰相:李沆(リコウ)の言葉です。
李沆は、宋三代目真宗(シンソウ)の時の宰相で、先見性と慎重さを身に着けた人物でした。先見とはことが現れる前に見抜くことで、四字熟語として「先見之明」などと表します。

真宗は、二代目帝太宗が手掛けた科挙制度を完成させるなど、内政面での功績もあり、外交面においても契丹民族の遼国や西方の西夏王朝と和睦するなど、当初は宋王朝の繁栄のために尽くしました。しかし王朝経営の緊張感が無くなると、次第に巡遊が増え、行く先々に宮殿を建てるなどして、次第に華美贅沢に走るようになりました。
森鴎外が「富人が金を得れば、悪業が増長する。貧人が金を得れば堕落の梯子(ハシゴ)を降りて行く」と言っています。宰相として帝の性格の弱さを補えなかった責任もありますが、李沆の人物を見る眼力はかなりのものです。

贅沢は、結婚生活と同じで時間と共にだんだんと麻痺していきます。好きな人とやっとの想いで結婚しても、蜜月の時が過ぎればただの伴侶でしかありません。贅沢生活も同じで時の経過とともに麻痺し、贅沢を重ねていると贅沢麻痺病になってしまいます。
更にもう一つの特徴に、贅沢は傲慢を生み謙虚さを失わせることです。高価なものを身に着け贅沢な暮らしをしているうちに、気付かないうちに傲慢さが出てきます

「金を使うな」と言いますと、人生の楽しみが無くなると反発する人もしばしばです。しかし心の主人公である自分自身を楽しくするのに、わざわざ金の力を借りなければできないようでは、とても一流の人間とはいえません。
現代資本主義社会では、隙在らば財布のひもを緩くさせようとする宣伝が溢れています。宣伝の荒波に溺れることなく、「武士は喰わねど、高楊枝」の気分で清貧を楽しむくらいの余裕があれば、心の面でも金の面でも自然に余裕が生まれ自由が生まれます。

江戸時代の黄檗(オウバク)宗の鉄眼和尚の言葉に「痛ましきかな世の中の人、名利の酒に酔いて、ついには正念もなく、財宝の縄に繋がれて、一生自由にならず」とあります。
和尚は今から400年前に、名誉・利益・財産の欲望が増せば、自由を束縛された気の毒な人生を過ごすと警告されています。
現代でも非民主主義体制の国々での自由制限が問題になっていますが、謙虚と倹約の精神が緩むと世界最高水準の民主主義国家の日本に生活しながら、知らないうちに自らの自由を制限してしまう恐れがあるということです。

 

杉山巌海

第89講 「帝王学その39」 禍福に門無し。ただ人招く所なり。前のページ

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