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第154話 上海ロックタウンから見た「ゼロコロナ」の限界

中国経済の最新動向

 4月18日、中国国家統計局は1~3月期の経済成長率が4.8%と発表し、政府の通年目標5.5%を大きく下回った。翌日、国際通貨基金(IMF)は22年中国経済見通しを1月時点の4.8%増から4.4%へと下方修正した。

 

 その背景にはウクライナ戦争、「ゼロコロナ」対策による中国景気悪化、米FRB(連邦準備理事会)の利上げという3つのリスク要因が指摘される。そのうち、「ゼロコロナ」下でのロックタウン多発は中国の景気を悪化させる最大の要因だと思う。そして「ゼロコロナ」政策は限界に来ていることは明らかだ。

 

◆コストを無視するロックタウン多発・乱発

 「動態清零」という「ゼロコロナ」対策は、中国政府の新型コロナ対策の国策と言え、ロックタウンは「ゼロコロナ」を実現するための重要手段と位置付ける。確かに、これまで中国は武漢ロックタウンでコロナ感染拡大の抑え込みに成功してきた。

 

 しかし、感染率が高く広がりが速い一方、重症率と致死率が低いオミクロン株の出現によって、中国の「セロコロナ」対策は新たな厳しい試練に直面している。特に問題となっているのはコスト無視のロックタウン多発・乱発だ。

 

 3月中旬以降、中国でロックタウン(都市封鎖)実施を発表する大都市が相次いでいる。11日に吉林省長春市 (人口900万人)、14~20日に深圳市(1750万人)、15日に河北省廊坊市(550万人)、16日に広東省東莞市(1000万人)、22日に遼寧省瀋陽市(900万人)と河北省唐山市(770万人)、28日に上海市(2600万人)などの大都会が次々とロックタウンを断行。部分的封鎖を含めば、3月だけで、合計45都市がロックタウンを実施したのである。その人口数が全国人口14億人の26.4%を占める。

 

 野村総研の試算によれば、全国GDPの40%がロックタウンの影響を受けている。

 

 それではロックタウンの基準は何か? 実は中国に明確な基準がない。人口10万人当たりの感染者数、病床占有率、重症者数など分かり易い数字基準が示されず、地方政府の判断に任せる状態となっている。例えば1760万人の深圳市は3月14日ロックタウン実施時点で、感染者数は60人(うち、感染者39人、無症状者21人、重症者0人 )。28日にロックタウンを発表した人口2600万人の上海市は、同日の感染者96人、無症状者4,381人、重傷者0人だった。

 

 常軌を逸したロックタウンは安徽省蕪湖市で起きている。364万人の同市は、4月16日にコロナ陽性患者1人を確認しただけで、市政府は17日よりすべての市民外出を禁止し、全員PCR検査を実施すると発表した。

 

 蕪湖市政府は一体、何のために、誰のためにロックタウンを実施したか? 市民たちが理解に苦しむのは実情だ。

 

 ロックタウン実施のため、膨大なコストがかかる。深圳市の実例を見よう。3月14~20日、同市は無症状者153人を含む525人のコロナ感染を確認した。試算によると、この1週間にかかったコストは約600億元(1.2兆円相当)、1人の陽性患者を確認するには1億元超がかかったという計算だ。

 

 現実無視、コスト無視のロックタウン多発・乱発。その持続が可能かどうかを疑問視する声は、いま中国で上がっている。

 

 

◆混乱が極まる上海市のロックタウン

 ロックタウンが全国的に多発・乱発するなかで、特に影響が大きいのは、中国の最大都市上海市の都市封鎖である。

 

 上海市は3月28日よりロックタウン実施以来、25日まで1カ月弱経過した現在、コロナ感染者数は依然と1日2万人前後で推移し、終息の見通しが立たない状態が続いている(図1を参照)。

 

 そもそもなぜ上海市はロックタウンに踏み切ったか? 一言でいえば、香港防疫「失敗」の轍を踏まないため、上海市政府はやむを得ず都市封鎖という厳しい措置を取ったのである。

 

 香港のコロナ第5波は昨年12月末から始まり、全員PCR検査やロックタウンなど実施せぬため、コロナ感染拡大を許し、医療崩壊を招いた。図2のように、ピークの時に1日に58,757人感染(3月9日)、304人死亡(3月17日)。4月14日時点で、第5波のコロナ感染者数は累計で118・2万人、感染率は全人口740万人の15.8%を占め、6人に1人が感染したという計算だ。死者数は累計で8,789人、致死率は0.743%と極めて高い。

出所)上海市衛生健康委員会の発表により筆者が作成。

出所)香港衛生当局の発表により筆者が作成。

 仮に上海は香港のように感染拡大した場合、総人口2,600万人のうち、410万人がコロナを感染し、3万人超が死亡する。これは政府にとっても国民にとっても容認できない数字だ。下手をすれば、共産党支配を揺るがしかねず、習近平政権の責任まで問われる可能性さえある。

 

 今秋に習近平総書記3期目を決める共産党全国大会のイベントが予定され、開催の成功を確保するために、香港のような感染拡大を絶対に回避しなければならない。政治的な意思が働いた結果、市政府はロックタウンが断行したのだ。

 

 しかし、納得が行く政府側の十分な説明がなく、上海市民の心の準備が全くできていないまま、ロックタウンに突入した結果、混乱が広がっている。

 

 まずは医療崩壊及びそれに伴う二次的被害の広がりだ。ほとんどの病院はコロナ対策の徹底に追い込まれ、コロナ以外の患者治療が出来なくなった。救急車を呼べなかったり病院側に入院治療が拒否されたりして死亡した一般基礎疾患患者は後を絶たない。

 

 急性膵炎の激痛に耐えられず、入院治療も拒否されて自殺した一般患者、政府部門責任者からのプレッシャーと市民からの苦情という二重圧力に耐えられず飛び出し自殺した区役所の役人、喘息の発作で自分が働いている病院に入院治療を拒否されて死亡した看護師など、コロナ感染で死亡したのではなく、コロナ対策で死亡した悲劇が相次いでいる。

 

 「いま上海市にはコロナしか一種類の病気が無く、ほかの病気はすべて病気ではない」と、上海市民からこうした悲鳴が上げている。

 

 もう1つの混乱はサプライチェーンの寸断による生活インフラの崩壊だ。ロックタウンのため、外部からの物資は上海に入りにくい一方、パニックに陥る市民たちは生活必需品の買い溜めに一斉に動き出す。そのため、食品不足、野菜不足、生活必需品不足などが起きる。市場経済が全く機能せず、政府による統制経済が復活する。過去30年にわたって市場経済に慣れてきた企業も市民も適応できず、混乱が一層拡大している。今の上海市はこうした未曽有の厳しい試練に直面している。

 

 三番目の混乱は、政府部門による乱暴なやり方及び市民の反発である。上海市浦東新区政府はロックタウンを徹底させるため、23日付けの「通知」で最も厳しい規制を導入。新型コロナ感染者が見つかり封鎖対象に指定された集合住宅の周囲に、緑色の金属製フェンスを設置し住民の外出を規制するという「硬隔離」措置を発表したのだ。徐匯区、閔行区などにも導入が広がっている。

 

 集合住宅の出入り口が金属製フェンスで封鎖されたため、万が一火災が発生した場合、住民の逃げ道が失われ、焼死者続出という大惨事となりかねない。

 

 こうした住民の命の危険を無視し、人権を厳しく侵害する乱暴な「硬隔離」措置に対し、市民たちは激しく反発している。SNS「微博(ウェイポー)の利用者は「家畜のように金属製フェンスで囲うのは、人間の権利を全く無視している」と批判した。しかし、情報統制のため、上海の窮状や市民の苦情を訴える動画及びネット投稿は、すぐ政府ネット部門に削除される。

 

 

◆広がる上海ロックタウンの影響

 中国最大都市・上海のロックタウンは、経済活動に深刻なダメージを与えている。その影響は主に次の4つである。

 

 まずは中国経済への打撃だ。上海市のGDPは全国の約4%、江蘇省、浙江省を含むグレータ上海で計算すると、全国の20%強を占める。香港中文大学経済学部教授宋錚氏の研究チームによれば、上海や北京のような大都会がロックタウン2週間続く場合、当月の全国GDPは2ポイント(約1900億元)を減らす。言い換えれば、上海ロックタウン1カ月で当月の全国GDPの4ポイントが減少し、約3,800億元が吹っ飛ばされる。

 

 第二に、上海市は世界有数の産業集積地であり、上海港は世界最大の港湾であるため、ロックタウンの実施はサプライチェーンの寸断をもたらし、中国経済のみならず、世界経済にも破壊的な影響を与えている。

 

 在中国ドイツ商会の調査によれば、ロックタウンのため、中国進出のドイツ企業の物流・倉庫分野の51%、サプライチェーンの46%が寸断され、或いは深刻なダメージを受けている。31%の企業は生産停止に追い込まれている。在中国EU商会会長は、4月8日に胡春華副首相宛に書簡を送り、ロックタウンなど「ゼロコロナ」対策の見直しを要請した。

 

 上海日本国総領事赤松秀一氏も4月17日に宗明・上海副市長宛に書簡を送り、ロックタウンのため、サプライチェーンの寸断、食品不足、銀行営業停止による従業員給料支給の中断など、1万1千社にのぼる日系企業の苦情を訴え、改善措置をとるよう求めた。

 

 第三に、上海市などロックタウン多発のため、外国資本の「中国離れ」が加速している。

 

日本総研リポート「中国証券市場から大規模な資金流失」によると、今年3月中国証券市場に大規模な資金流失が発生し、純流失金額は175億ドルにのぼるという(図3を参照)。

出所)日本総研リポート「中国証券市場から大規模な資金流失」より筆者が作成。

出所)ヤフーファイナスのデータより筆者が作成。

 図4に示す通り、上海総合指数の推移から見ても、内外資本の「中国離れ」加速が裏付けられる。ウクライナ戦争勃発の2月24日から4月22日までの主要国株騰落率を調べると、ウクライナ戦争の影響にもかかわらず、英国4.4%、日本2.5%、米国2.1%、フランス0.9%とそれぞれ上昇し、ドイツが僅か0.3%下落した。一方、中国だけは▼10%、大幅な下落が際立っている。最大の要因はロックタウン多発による中国景気悪化の懸念と思う。

 

 第四に、上海ロックタウンの長期化は第20回党大会の人事に影響する可能性もある。ロックタウンの前に、習近平主席の則近で上海市書記を務める李強氏は次期首相の最有力候補と見なされていた。しかし、上海コロナ感染拡大の抑え込みに失敗し、ロックタウン断行によって混乱が極まり市民の不平不満が爆発寸前となっている。李氏の危機対応能力が問われ、彼の昇進も危うくなる。

 

 

◆「ゼロコロナ」政策はいずれ修正される

 新型コロナウイルス感染症(COVID‑19)が発生以来、人類社会は一時的に感染拡大の抑え込みに成功したとしても、コロナウイルスを消滅することはできなかった。そのため、いま欧米諸国をはじめ世界のほとんどの国々は「ウィズコロナ」政策を取っている。つまり人間社会はコロナと共存する。今、「ゼロコロナ」政策を固持するのは、中国と北朝鮮だけ。

 

 現在、中国の「ゼロコロナ」政策は限界に来ている。まず、国際環境から見れば、欧米諸国のみならず、ほかの国々も「ウィズコロナ」で開放政策を取り、人的往来を再開している。世界第二位の経済大国中国は、グローバル化の時代において、鎖国することが不可能だ。従って、中国もいずれ「ゼロコロナ」を修正し、「ウィズコロナ」に転換するだろうと思う。

 

 経済の現実から見ても「ゼロコロナ」の限界が明らかだ。ロックタウンの多発で、中国の景気が悪化し、1~3月期のGDP成長率が4.8%、政府の通期目標5.5%を大幅に下回る。特に消費低迷で3月の小売総額は前年同月に比べ3.3%減少、うち飲食業が▼16.4%となっている。景気悪化によって、多くの中小企業が倒産に追い込まれ、失業者が急増している。政府当局の発表によれば、3月の都市部失業率は5.8%、前月比で0.3ポイント増加、昨年12月に比べ0.7ポイント増加。4~6月期の経済指標はさらに悪化することはほぼ確実となっている。

 

 経済の悪化は社会の不安定につながり、政治の安定や共産党一党支配の正当性も揺るがしかねない。

 

 要するに、経済的・政治的・国際的に見ても、コスト無視、現実無視の「ゼロコロナ」政策は継続困難で、遅くても今秋党大会開催後に見直されると、筆者は見ている。 

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