今回も私の著書「改善の急所101項」から1項を紹介し、実例を挙げて解説します。
【急所74】モノづくりは、付加価値がつく瞬間以外は、運搬または停滞である。(172頁)
そして次の瞬間、「カチッ」と音がしてボディにキャップがはまります。この「カチッ」の一瞬のみが付加価値が付く瞬間です。
そして、組み立てられた万年筆はまたテーブルに戻されますが、これは「運搬」で、付加価値は付きません。その後は「停滞」ですから、これも付加価値は付きません。いかがでしょうか? とても厳しい見方です。
トヨタ生産方式では、この分類を「動く」と「働く」で表現しています。移動は「動く」で、「カチッ」の瞬間が「働く」です。実際に作業をこの厳しい見方で観察し分類すると、「動く」が圧倒的に多く、作業に占める「働く」の割合は、一割程度になってしまうことが多いのです。
しかし、作業をしている人に対して、「君は動いてばかりで、ちっとも働いていないね」などと言ってはいけません。その作業者のせいではないからです。付加価値の付く仕事の割合を高めるために敢えて厳しい見方をしているのですから、社長も管理者も担当者も、技術者も生産者も、みんなで考えて改善をするのです。
改善は、これまでにずいぶんやったからもうそろそろネタが尽きてもおかしくない…と思っている経営者は多いのですが、こういう厳しい見方で現場を見ると、尽きるどころかほとんど手付かずと思われることでしょう。そういう「気付き」が得られる見方なのです。
ところで、作業動作という、人中心の見方から始めましたが、次はモノ中心で見てみましょう。
例えば、ある部品が20個の単位で箱に入っているとすると、使われている1個以外の19個は停滞中ということになります。これまた厳しい見方です。
しかしこの厳しい見方に対して、「箱の大きさはしょうがないでしょう」と言って改善しない会社と、「箱はすぐには変えられないけれど、まずは工程別のロット生産を一個ずつ流す一個流し生産に変えよう。そうすれば停滞が材料と完成品に集約できる!」と言って、できることからコツコツ改善を始める会社だったら、どちらが強いかは明らかです。
このように、厳しい見方を敢えて実行して改善のネタを見つけることも、変化の時代に生き残り勝ち進む秘訣です。
さて、N社では以前から毎月一回社長を筆頭に、幹部が実行する5S・安全パトロールの際に、この「付加価値をベースにして仕事を見直す」という項目を加えました。
例えば、最近溶接職場で行った改善について教えて頂いたのですが、ちょっと前までは手で持つ遮光面を使っていたので取り置きが頻繁で「動き」の多さが目についたのが、自動遮光機能付のヘルメットタイプに変えたので、面の取り置きが無くなり、付加価値の付く「働き」が大幅に増えたとのことでした。
後にリーダーのKさんから聞いたのですが、現場の方々は、この自動遮光機能付きヘルメットを以前から欲しいと思っていたのだそうです。けれど高価なものなので社長に言い出せなかったのだけれど、社長の方から「これを使わないか?」と聞かれて「しめた!」と思ったそうです。
「柿内さん、社長を教育してくれてありがとう」とお礼を言われました。