同族経営、ファミリービジネスにとって持株の継承がうまくいくかどうかは死活問題である。
従前に比べ、自社株のスムーズな譲渡や家族間の軋轢を未然に防ぐ選択肢が増えた。
例をあげれば、新事業承継税制で80%の相続税納税猶予の適用を受ける、拒否権が発動できる黄金株のみ
親が所有しあとは子どもに譲渡す る、相続時精算課税制度を利用して生前に資産を分けてしまう、遺留分の
支払いを先送りにする手法等である。
しかしこれらの対策が実を結ぶには家族・相続人 の合意が前提となろう。
欧米におけるファミリービジネスの継承をみると、何世紀に亘り信託(トラスト)が大きな役割を果たしてきており、
英米法下の信託は日本にも導入されつつある。税法の整備が進めばわが国にとって有力な枠組みとなろう。
ヨーロッパの大陸法下の国々では家族の資産を守るという目的のファミリー・ファウンデーション(財団)が使われてきた。
しかし日本ではこの種の財団は「脱税もどき」とみなされる傾向がある。
そもそも日本社会には次世代に資産を遺すことを必ずしも「良し」としない風潮が根底にあるように思われる。
しかし、同族経営は日本経済にとって力の源泉で あり、それを守り育てていくには、スムーズな資産継承が肝要である。
この面からも信託などの継承の枠組みの導入や整備が必要だ。
が、いかによい枠組み、対策が整えられようと、家族や相続人が納得していなければ結果うまくいかない。
家族間のコミュニケーション、意見調整がスムーズにできる素地づくり、習慣作りが必要だ。
これこそ親が行える最強の相続対策だし、今すぐにでも始めて欲しい。
榊原節子