世界銀行の副総裁を務めた日本人女性、西水恵美子氏の話を聞いた。
学者出身の西水恵美子氏が1997年世界銀行という大組織の副総裁に就任した。当時、世銀は世界の批判にさらされていた。貧困のない世界を目指し、途上国発展向上のための資金協力が役割なのに、職員には必ずしも貧しい人々への共感はなく組織は硬直化していた。
西水氏は大胆かつ積極的な組織改革に乗り出す。多くの反対を押し切って職員たちをパキスタン北部の貧しい村にホームステイさせる。日3回、遠い山道を登っての水汲みに6時間以上が費やされ、残りの時間は畑仕事。そんな過酷な労働にもかかわらず殆ど食べ物を手にすることができない極貧の生活。
西水氏自身貧しさに対する軽蔑みたいなものが心のどこかにあったという。しかし、ホームステイする過程で心(ハート)が反応し始め、お世話になったお母さん達の生活を改善したいというエネルギーが湧いてくる。頭と心が合体し、そしてスイッチが入る。「リーダーシップとは頭と心が一致して本気で遂行するとき発揮される。」と、西水氏。実際、西水氏のリーダーシップはいかんなく発揮されていく。
職員達の間にも変化が起きた。組織文化は組織の人間がビジョンと価値観を共有すれば変わる、と言われるが、「人間頭でわかっていてもハートにつながらなければ動かない」と西水氏。職員達の頭とハートが繋がったことで、世銀という大きな組織も徐々に変わり始める。西水氏は組織全体の仕事の取り組み方、現地採用の待遇改善、女性管理職の登用などに成果をあげていく。チーム精神が盛り上がり、組織文化が変わっていった。
ついで、西水氏は職員のみならずその家族全員を頭にいれて人事を考えるようになる。きっかけとなる出来事があった。某職員に元気がなくなったのに気づいてその理由を尋ねると、「小学生の子供が私の出張の度に寝小便をする、優秀だった成績も下がってきた。心配でしょうがない」と打ち明けられた。そこで子づれの海外出張をサポートする。子供は母がいかに有意義なことをやっているか目の当たりにし、自分もああなりたいという思いを抱くようになって、元気をとり戻し、母親もまた元気になった。「働きがいと生きがいが一緒になって地殻変動を起こす」、と西水氏。
西水氏の改革は、組織に限らず全ての組織にとって大きな示唆を与えてくれる。いや、一部の企業ではもう何世代にもわたり実践されてきたことかもしれない。同族企業のなかには、価値観の共有、社員たちの家族を含む全員の幸せ、地域社会への貢献を念頭に置いた人事や経営を実践し、会社に、ダイナミックな発展をとげさせてきた経営者がいるのを時々耳にする。こうした企業は、たとえ不運に見舞われることがあっても、社員が一丸となって不可能とも思われることを成し遂げ、或いは地域社会の応援があったりで、再び盛り返し着実に事業は継続されていくのである。
ファイナンシャルアドバイザー 榊原節子
近著紹介 2013年9月出版
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