スーパーマーケットを経営する伊藤社長が、賛多弁護士のところへ法律相談に訪れました。
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伊藤社長:先日は、総額表示義務への対応やLGBTについてのお話をありがとうございました。本日は、弊社の株式についてご相談させてください。
賛多弁護士:どうされましたか。
伊藤社長:先日、弊社の定時株主総会を開催しました。株主総会を開催するにあたり、弊社株式50株を保有するAさんという方に招集通知を発送したのですが、保管期間経過のため返還されてしまいました。Aさんは、創業当初からの株主ですが、ここ数年連絡が取れておりません。毎年招集通知を発送するのにも費用が発生しますし、会社の懸念事項は私の代ですっきりさせたいので、Aさんの株式を買い取りたいと思っています。しかし、Aさんと連絡が取れないため、株式買取の交渉をすることもできないのです。
賛多弁護士:なるほど。株主の所在が分からない株式を買い取る方法はいくつかありますが、その前に、住民票などを請求してAさんの所在を確かめるという方法もあります。
伊藤社長:分かりました。可能であればAさんと直接交渉をしたいため、まずはAさんの所在を確かめるところからお願いします。仮にAさんの所在が分からなかった場合、どのような方法がありますか?
賛多弁護士:わかりました。まずはAさんの住所の調査を進めますね。もしそれでもわからなかった場合、1つ目に、御社の特別支配株主から売渡を請求することが考えられます。特別支配株主というのは、総株主の議決権の十分の九(これを上回る割合を定款で定めた場合はその割合)以上を有する株主をいいます。
伊藤社長:今回は弊社が買い取ることを考えているので、他の方法を教えてください。
賛多弁護士:それでは2つ目に、例えば株式100株を合わせて1株にするというように株式を併合し、Aさんの保有する50株を端数株式として売却させる方法が考えられます。
伊藤社長:そうなんですね・・・しかし、Aさんの他にも50株前後を保有する株主がいるので、他の株主へ影響が出る方法は避けたいです。
賛多弁護士:分かりました。他の株主への影響を考えると、この方法は適さないですね。
賛多弁護士:3つ目に、裁判所へ所在不明株主の株式売却許可申立を行う方法があります。①会社が株主に対してする通知又は催告が5年以上継続して到達しないこと、及び②株主が継続して5年間剰余金の配当を受領しなかったことという要件を満たす必要がありますが、この要件を満たせば、会社は、市場価格のない株式については裁判所の許可を得て、当該株式を売却することができます。
伊藤社長:この方法でしたら、弊社でも利用できるかもしれません。
賛多弁護士:①5年以上継続して到達しなかったという事実の疎明資料としては、6年分の返戻封筒を提出することが求められています。
伊藤社長:えっ。6年分の返戻封筒が必要なのですか。先日の株主総会招集通知書の返戻封筒は保管していますが、それ以前のものは捨ててしまいました。また今年から保管していくとなると時間はかかりますが、他の株主への影響も少ないですし、この方法で進めていきたいと思います。
賛多弁護士:分かりました。今後は、株主総会招集通知書と返戻封筒などの疎明資料を保管するようにしてください。また、裁判所に対して株式売却許可を申し立てる時には、所定の事項を公告したり、対象株式の株主に個別に催告をすることなどの手続が必要となりますので、申立てを行う前に、再度相談に来てください。
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所在不明株主の株式を買い取る方法は複数ありますが、いずれも煩雑な手続を伴います。そのため、日頃から株主名簿を適切に管理するなどの方法により、所在不明株主を生じさせないようにすることが重要です。
令和3年8月2日施行の「産業競争力強化法等の一部を改正する等の法律」に伴う「中小企業における経営の承継の円滑化に関する法律」の改正により、所在不明株主の株式の競売及び売却について、株式買取り等に要する期間を1年に短縮する特例が新設されました。都道府県知事の認定を受けることや所要の手続を経ることは必要となりますが、所在不明株主の株式買取りを検討されている場合には、特例の対象に含まれるかご確認ください。
詳細については、下記が参考となります。
・裁判所「所在不明株主の株式売却許可申立事件についてのQ&A」
https://www.courts.go.jp/tokyo/saiban/dai8bu_osirase/hisyokaryo_osirase/syozaifumeikabunusibaikyakukyokaQA/index.html
・中小企業庁「4.所在不明株主に関する会社法の特例」
https://www.chusho.meti.go.jp/zaimu/shoukei/shoukei_enkatsu.htm
執筆:鳥飼総合法律事務所 弁護士 小杉 太一