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- 中小企業の新たな法律リスク
- 第48回 『コロナ禍による減収で賃料減額請求できるのか!?』
老舗ケーキ店を3店舗営んでいる黒沢社長が、コロナ禍により売上が減少し、家賃負担が重いとのことで、今日はその相談で来所されました。
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黒沢社長:賛多先生、コロナ関係で緊急事態宣言が延長されました。ワクチンの接種も始まるようですが、終息まではまだまだ道のりは長いですね。
賛多弁護士:まったくその通りですね。変異種も市中感染しているようですし、症状が治まった後の後遺症も懸念されます。緊急事態宣言下、とにかく今はみんなで耐えて、コロナに打ち勝つしかありません。
黒沢社長:はい、頑張っていきたいと思います。ところで本日なのですが、やはり当社もコロナの影響は免れることができず、世の中ではパーティーやイベントなどの会食が皆無となったことから、企業様や団体様の需要が減ってしまい、売上が減少しているのです。各種助成金を活用し、またアルバイトのシフトを調整するなど雇用調整も行っているのですが、まだ固定費の負担が重いのです。
賛多弁護士:なるほど。固定費で従業員の給与以外で負担が重いものですと、例えばお店の賃料などでしょうか。
黒沢社長:おっしゃる通りです。3店舗経営していると、毎月の賃料もそれなりの額になるのです。いずれも固定賃料(一般的に定まった額をいいます。尚、売り上げに応じる賃料を一般的に歩合賃料といいます)で、月々の賃料負担が重いのです。何とか減額できないものでしょうか。
賛多弁護士:そうですね。まず残念ながら法律上当然に減額請求することは難しいのです。すなわち、オーナー様(賃貸人)に店舗を休業させられているわけではなく、社長は3店舗共営業できているため、民法上賃料の減額請求は難しいのです。また、借地借家法で、経済事情の変動があれば減額請求できるという条文があるのですが、コロナのような疫病の流行が果たして経済事情の変動といえるかが微妙であり、やはり難しいと思います。
黒沢社長:そうなのですね。そういえばたしか、民法は大きく改正されたのですよね。以前、商工会のセミナーで聞いたことがあります。
賛多弁護士:はい。昨年(2020年)4月に民法が改正されました。賃貸借に関する変更の中で今回の件に関係する変更点としては、賃借人の責めによらない事由で店舗が一部滅失等したことにより店舗を使用できなくなった場合には、その使用できなくなった割合により賃料が当然に減額される、というものがあります。ただ、社長の3店舗の賃貸借契約は、以前更新の際に契約書をチェックしたので覚えていますが、3店舗共、一昨年(2019年)の契約更新で5年契約でしたので、改正前の旧民法が適用されるのです。尚、次回更新時(2024年)の契約から改正民法が適用されます。あと、店舗が使用できている状況で減額請求は困難という点は、改正民法も旧民法も同様であり、したがって結論に差は無いのです。
賛多弁護士:法律上の減額請求は難しいとして、次に、契約に基づいて減額請求できるかについてですが、今回のコロナ禍は前代未聞の現象であり、発生まで誰もこのような非常事態を想定できませんでした。そのため、契約上でコロナのような疫病流行による減額条項を規定していることは皆無です。そして社長の3店舗の契約書にも、やはり減額請求できる条項はないので、契約上の減額請求も難しいのです。
黒沢社長:そうなのですね。先生、他に何か良い方法はないでしょうか。
賛多弁護士:はい。まず国の家賃支援給付金制度がありますが、これは黒沢社長の会社では既に利用されているので、あとはオーナー様と交渉し、例えば一定期間につき減額をする旨を合意することや、一定期間の支払猶予を合意することが考えられます。
黒沢社長:分かりました。いずれにせよ当然には減額請求をすることは難しいのですね。そうするとオーナー様との交渉が必要になりますが、交渉は法律の専門家である先生にお願いした方が良いのでしょうか。
賛多弁護士:いきなり弁護士が出ていくと、オーナー様も身構える可能性があるので、社長が宜しければ、まずは社長か会社の担当者様にてオーナー様と交渉していただき、適宜事前相談や情報共有時にアドバイスを私が行う形でいかがでしょうか。
黒沢社長:はい。そうしましたら、私が交渉します。ただ先生、事前の相談とその後のアドバイス、是非とも宜しくお願いします。あと、万が一交渉がうまくいかなかった時は、先生に交渉窓口をお願いしたいです。
賛多弁護士:もちろん、承知しました。黒沢社長、共に頑張りましょう。
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コロナ禍に伴う緊急事態宣言等で、業績に影響の出ている企業が多く存在します。中でも店舗やオフィスを借りて事業を営む方々は、月々の賃料負担が重くなっていることが多いと思われます。ただ、法律上や契約上に基づく賃料減額請求は難しいので、オーナー様(賃貸人)との交渉により賃料の減額や支払の猶予につき合意することが必要となります。
また、国の家賃支援給付金制度を利用されていない方は是非その制度を利用されることをおすすめします。但し、利用期限が2021年2月15日となっている(2021年2月2日現在)ので十分ご注意下さい。詳しくは経済産業省の特設ホームページ(https://yachin-shien.go.jp/)をご確認下さい。
執筆:鳥飼総合法律事務所 弁護士 丸山 純平