スーパーマーケットを経営する伊藤社長が、賛多弁護士のところへ法律相談に訪れました。
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伊藤社長:本日は、弊社の新規事業についてご相談させてください。
賛多弁護士:どうされましたか。
伊藤社長:お客様より、スーパーで買った商品を配送するサービスがあったら是非利用したいというご意見をいただきまして、商品の配送サービスを実施しようと考えております。そこで、弊社作成の申込書に、氏名、住所、電話番号などを書いていただき、その内容を表計算ソフトで一元管理する予定です。弊社でお客様の個人情報を扱うのは今回が初めてですので、事前にご相談させていただいた次第です。
賛多弁護士:承知しました。ご指摘の通り、御社が取得する情報は個人情報に該当します。そして、その個人情報を、事業に役立てるために、表計算ソフトで体系的に管理するということでしたら、御社は個人情報取扱事業者に該当しますので、個人情報保護法の規定に留意する必要があります。
伊藤社長:弊社では多くても1000人分の個人情報を取り扱うだけなのですが、それでも個人情報取扱事業者に該当してしまうのでしょうか。
賛多弁護士:はい。以前は、個人情報によって識別される特定の個人の数が5000人以下でしたら個人情報取扱事業者から除外されていましたが、現在は、個人情報の取扱人数は要件になっていません。
今回は、個人情報を取得する場面において留意すべき事項についてお伝えしますね。
伊藤社長:よろしくお願いします。
賛多弁護士:まず、個人情報取扱事業者は、個人情報の利用目的をできる限り特定しなければなりません。
伊藤社長:利用目的とは、具体的にどのようなものでしょうか。例えば、「スーパーマーケット事業に利用するため」という内容ではダメでしょうか。
賛多弁護士:そのように抽象的な利用目的では、できる限り特定したとはいえません。より具体的にする必要がありますので、例えば、「スーパーマーケット事業において商品の配送をするため」という内容が考えられます。
個人情報取扱事業者は、あらかじめ本人の同意を得ることなく、利用目的の達成に必要な範囲を超えて、個人情報を取り扱うことはできませんし、変更前の利用目的と関連性を有すると合理的に認められる範囲を超えて利用目的を変更することはできないだけでなく、利用目的を変更した場合は、変更された利用目的を本人に通知し又は公表しなければなりません。
このように、個人情報の利用はその利用目的に限定されますので、個人情報をどのように利用するのかについて事前に検討をした上で、利用目的を定める必要があります。
伊藤社長:分かりました。
賛多弁護士:次に、個人情報を取得する際は、偽りその他不正の手段により個人情報を取得してはなりませんが、この点について御社は問題ないと思います。また、御社所定の申込書を用いて個人情報を取得するということでしたら、あらかじめ、本人に対し、利用目的を明示しなければなりません。
伊藤社長:分かりました。申込書に利用目的を記載するようにします。
賛多弁護士:お願いします。なお、取得の状況からみて利用目的が明らかであると認められる場合、利用目的の明示は不要です。
伊藤社長:分かりました。それでは、利用目的を十分に検討し、申込書の書面案を作成いたしますので、完成しましたらご確認いただけますでしょうか。
賛多弁護士:もちろんです。
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個人情報を事業活動に活用することは一般的に行われていますが、同時に、消費者は、事業者に対し、自らの個人情報が悪用されないよう適切に管理することを求めています。
個人情報の漏洩に限らず、不適切な取得や目的外利用等についても、消費者の期待に反し、ひいては企業価値を損なう可能性がありますので、個人情報の取扱数の大小にかかわらず、個人情報を適切に活用することが重要です。
詳細については、下記が参考となります。
・個人情報保護委員会「個人情報の保護に関する法律についてのガイドライン(通則編)」
https://www.ppc.go.jp/files/pdf/210101_guidlines01.pdf
・個人情報保護委員会「個人情報の保護に関する法律についてのガイドライン」及び「個人データの漏えい等の事案が発生した場合等の対応について」に関するQ&A
https://www.ppc.go.jp/personalinfo/faq/2009_APPI_QA/#sec1
執筆:鳥飼総合法律事務所 弁護士 小杉太一