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人事・労務

第11講 やってはいけない部下のほめ方
―スタンフォード大の研究に学ぶ成長マインドセット―

顧客・社員・社会から支持される「ウェルビーイング経営入門」

グロース・マインドセットをつぶすほめ方

 では、どうやったらグロース・マインドセットが従業員に育っていくのでしょうか。
 実は、グロース・マインドセットは、周囲がどんなふうに関わるか、特に、「どんなふうに褒めるか」によって大きく左右されれることがわかっています。

 ここで、みなさんは、普段どんな褒め方をしているのか、具体的なケースで振り返ってください。

・ケース
 部下が、半年間の努力の結果、難攻不落と言われた1億円(大口)の商談をまとめてきたとき、上司のあなたはどんな言葉をかけますか?

1 1億円か、君は有能だな、よくやった!

2 半年もの間、あの難しい取引先を相手によく努力して頑張ったな、よくやった!

 

 1番は、「有能」という言葉で、能力を褒めています。
 2番は、「よく努力して頑張ったな」と、過程や努力を褒めています。
 いずれも部下を褒めていますので、何も言わないよりは、いいかかわりです。どちらの言葉をかけられても、部下は嬉しく感じるでしょう。

 ただし、グロース・マインドセットの観点からすると、望ましいのは、過程や努力を誉めている2番なのです。その理由は、グロース・マインドセットに関する著名な研究の中にあります。

 

研究結果が示す驚きの結果

 グロース・マインドセットに関して、キャロル・ドゥエック教授が、小学生数百人を対象に行った実験をご紹介します。

 実験では、はじめに、生徒たちに単純なテストを受けさせます。その後、生徒たちを2つのグループに分けます。
 グループに分けた後、テストについて全員を褒めます。ただし、以下のように、グループによってほめ方を変えます。

Aグループ:「よくできたわ。頭がいいのね。」と能力をほめる

Bグループ:「よくできたわ。頑張ったのね。」と努力をほめる

 その後、2回目のテストを受けさせますが、その際に、生徒たちには、選択肢が与えられます。「1回目と同じレベルの問題」か「もっと難しい問題」を解くかを生徒に選ばせるのです。すると、下記のような結果が出ました。

Aグループ:1回目と同じレベルの問題を選択

Bグループ:9割が難しい問題を選択

 つまり、能力を褒められたグループでは、それ以上のチャレンジしようとしないのです。それに対して、努力を誉められたグループでは、さらに難しい問題にチャレンジしようとする姿勢があらわれてきました。
 これは、人は能力を褒められると、その評価を維持しようとして、失敗を恐れるようになる、ひいては、失敗のリスクがあるチャレンジを避けようとするという、人間の心理を表したものとして著名な研究です。

 

失敗の受け止め方にも大きな違いが

 さて、この実験には続きがあります。
 生徒たちに、3回目のテストを受けさせるのです。このテストは生徒たちに選択の余地はなく、全員が同じものを受けます。
 ただし、このテストはあえて、難しいものを設定します。つまり、ほとんどの生徒は解けないくらいの難易度の問題です。当然、全員がテストの結果はよくありません。

 その後、テストが終わっての子どもの気持ちを調べた結果が下記のとおりです。

Aグループ:「自分は本当は頭が悪いんだ」と思い込む気持ち
Bグループ:「もっと努力しよう」と積極的に取り組む気持ち

 ここでも、二つのグループに、大きな違いがあることがわかります。最初に能力を褒められたグループの子どもたちは、チャレンジ精神を失うだけでなく、つぎに失敗したときに、その原因を自分の能力のせいだと考える傾向が続いていますね。つまり、成功も失敗も、自分の(固定的な)能力のせいだというわけです。こうなると、ますますチャレンジ精神は低下し、いわゆる、打たれ弱い状態に陥ります。
 この状態は、上記の理論でいれば、フィックスト・マインドセットに相当します。つまり、能力を褒めることで、相手の心にフィックスト・マインドセットを育ててしまうリスクがあるのです。

 一方で、最初に努力を誉められたグループの子供たちは、やってみよう、というチャレンジ精神が高まっただけでなく、失敗したときの挫折も小さく、むしろ、今度はもっと努力すればいいのだ、という前向きな姿勢が見られます。
 このように、努力を誉められた生徒たちに見られる傾向、つまり、チャレンジを恐れず、失敗しても、それを糧にさらに成長しようとする態度は、グロース・マインドセットそのものです。すなわち、努力を褒めることで、相手の心にグロース・マインドセットを育てることができるというわけです。

 最初のひとことが違うだけで、これだけの変化をもたらすことは、大きな発見であり、著名な研究として知られています。

 

1億円をまとめた部下への声がけも工夫次第

 この研究結果を見ると、先ほどの「1億円の商談をまとめてきた部下」に対するかかわり方のうち、2番が望ましい、ということが理由をもっておわかりいただけるでしょう。

 1番の「能力を褒める声がけ」は、いつしか、相手のチャレンジを妨げるフィックスト・マインドセットを誘発する可能性があります。他方、2番の「過程・努力を褒める声がけ」は、グロースマインドセットを育てる関りです。

 何気ない一言が、しかも、良かれと思って発した誉め言葉が、部下の育成の妨げになってしまってはもったいないですよね。どうせなら、ぜひグロースマインドセットを育てる誉め言葉を選びたいものです。

 ウェルビーイング経営を目指す経営者のみなさんは、グロース・マインドセットを伸ばすほめ方を会社に取り入れてみてください。

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