賃金管理研究所 チーフコンサルタント 高橋智之
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政府による3%の賃上げ要請で始まった今年の春季労使交渉ですが、連合の第4回回答集計結果(4月19日公表)などから見えてきた3つの賃上げ動向と、わが社の賃上げ率を正しく捉えるためのポイントについてお話ししたいと思います。
1)トヨタのベースアップ額非公表による影響
春季労使交渉におけるリード役として毎年注目されるトヨタの回答状況ですが、今年は3月14日の集中回答日が間近に迫っても方向性は聞こえて来ず、結果的にベースアップについては前年超え(1,300円超)とだけ発表されました。
このような対応となった背景には、他の労使がトヨタのベア額を参考にすると言いながらも「トヨタを何百円下回る程度が妥当か」という議論になりやすく、各社の労使交渉において本来あるべき姿に繋がっていないところにありました。今回の非公表により、良くも悪くも『トヨタに縛られない』議論が多くの労使で行われたのではないかと思います。
2)中小企業の賃上げへの取り組み
昨年の春季労使交渉でも中小企業による賃上げへの積極的な取り組みは見られましたが、その流れはさらに加速しながら続いています。
冒頭の連合の回答集計によれば、中小組合(300人未満)の定昇相当込み賃上げ額は4,964円、賃上げ率1.99%(昨年同期比+290円、+0.10%)となっており、増加額の絶対値は大手組合(300人以上)を上回っています(同+184円)。また、東京商工リサーチによるアンケート調査でも、今年度賃上げ実施予定の中小企業のうち76.1%が「従業員引き留め」をその理由に挙げており、人材確保のために賃上げで対応しようとする企業の姿勢がより鮮明に浮かび上がってきます。
3)非正規従業員の賃金引上げ
働き方改革関連法案の成立は、当初の想定よりも大幅に遅れる見通しですが、同一労働同一賃金への対応を先取りするような動きは春季労使交渉ですでに見られました。
時給アップでの賃上げはもとより、期間従業員への子ども手当の支給(トヨタ)や年始勤務手当の支給(日本郵政)等による賃上げ、また定年再雇用者も正社員と連動した賃金引上げを実施する(ホンダ)など、不合理な待遇差の解消に向け処遇改善を進めています。
【わが社の賃上げ率を正しく捉えるためのポイント】
『賃上げとは、定期昇給とベアを加算したもの(賃上げ率=定昇率+ベア率)』であり、社員の人員構成によって賃上げ率も変化することに留意する必要があります。例えば社員の平均年齢が20代後半と若い会社であれば、所定内賃金も低いため定昇率は高めとなり、また、平均年齢が40代の会社であれば総じて定昇率は低めとなります。したがって同額のベアを行ったとしても、両社の賃上げ率には差が生じるのです。
世間の賃上げ率ももちろん重要ですが、過度に振り回されず、自社の人員構成や定期昇給原資額等を把握した上で、わが社の適正なベア額を検討することが大切です。