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新技術・商品

第57話 枯れた技術からでもヒットは生める

北村森の「今月のヒット商品」

 新年度の始まりですね。今回はこの時期にふさわしそうな商品を一点、取り上げてみましょう。まずは前置きとなる話を少しさせてください。

 

 今回のテーマは、「ヒット商品をつくるには何が必要か」という話です。ユーザーの声を丹念に集めることか。新しい技術をものにすることか。私は必ずしも、そうとばかりは言えないと考えています。

 

 まず、消費者が真に欲しいと心を突き動かされる商品って、実を言いますと、消費者自身が意識できている範疇の埒外にあるケースが多いからなんですね。思ってもいなかった商品が登場したときに「ああ、これが欲しかった」となることが実は少なくない。それまで決して「こんなものがあったら買いたい」と考えていなかったにもかかわらず、です。消費者の意識下に潜んでいて本人ですら気づいていない(言語化すらできていない)欲求のことを「インサイト」と言いますが、そうしたインサイトを掴むには、企業の側から何かを提案するしかないんですね。消費者は意識できていないわけですから当然そうなります。

 

 もうひとつ、未来からやってきたような技術だけがヒット商品づくりの源となると限りません。これはもう周知の事実かと思います。もう使い古されたような枯れた技術だって、使いようによっては生かせることができますね。

 

お待たせしました。今回の商品はこれです。

 なにやら昔懐かしいトースターを思わせる姿かたちですが、パンは焼けません。では、何をする道具か。レオルトパウチ食品を、お湯や鍋、電子レンジといったものを全く使わずに、そのまま温められるというキッチン家電です。できることはそれだけ。ところが2月の一般発売から、結構な売れ行きを見せています。

 

 商品名を「レトルト亭」といい、開発したのはアピックスインターナショナル。実勢価格は7000円台半ばです。まず昨年、クラウドファンディングで支援を募ったのですが、実に2200万円を超える額を獲得。その後、一般発売までの間に、突沸という現象によってレトルトパウチが破損して中身が飛び散るというトラブルが起きたのですが、同社がすぐさま部品を追加して、熱を逃がす措置を講じました。その即応感がよかったのでしょう。一般発売時にも反響を得ていて、いっときは品薄状態にもなったようです。

 この「レトルト亭」、構造自体は古典的といった印象です。レトルトパウチを温めるのは低温ヒーターですし、稼働させる場面で回すタイマーは、カチカチと音がなる主導のキッチンタイマーを彷彿とさせる仕様です。つまり、つくりそのものには新規性は感じられません。新しいのはその発想、これに尽きます。でも、この発想こそが、ヒットにつながっているわけです。

 

 レトルトパウチ食品というのは、今や多岐にわたります。カレーやパスタソース以外にもたくさん登場していますね。それらをできるだけ楽なプロセスで食べることができるのが、この商品です。これは私の想像ではありますが、この「レトルト亭」が世に出る前の時期に、企業が消費者を集めてグループインタビューを敢行して、「次にどんなキッチン家電が欲しいですか」と尋ねたところで、このアイデアは聞き出せなかったのではないでしょうか。答えはつまり、企業の開発者のなかにこそある、というわけです。だから、アピックスインターナショナルは、インサイトを見事につかめた。

 

 もうひとつ、ここで整理しておきたいことがあります。家電分野では、この10年ほどで3つのトレンドが見て取れるという話。

 

 1つ目は「大手メーカー以外の隆盛」。ベンチャー企業の家電が存在感を高めていますよね。バルミューダなどがその代表例です。2つ目は「一発芸型の家電のヒット」。これは特にキッチン家電分野で顕著な動きであり、フィリップスの「ノンフライヤー」などが例として挙げられます。3つ目は「おひとりさま家電」の定着でしょう。単身者、あるいは生活時間が家族間でずれている世帯では、これがとても重宝する。

 

 で、今回の「レトルト亭」はと言うと、この3つのトレンドすべてを内包している家電と言えますね。だからこそ、新生活シーズンに向けて注目を浴びたのではないでしょうか。

第56話 おじさんは知らないZ世代ヒット前のページ

第58話 常識を疑うと、ヒットが生まれる次のページ

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