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第56話 おじさんは知らないZ世代ヒット

北村森の「今月のヒット商品」

Z世代と呼ばれる10代半ば〜20代半ばの若年層が、これからの商品のヒットを担う、という分析は多方面でなされていますね。SNSネイティブであるZ世代は、情報の取り方も発信の仕方も、ごく自然体な印象です(対照的なのは、なにごとにも過剰な反応を示しがちなバブル世代でしょうか。私はまさにバブル世代の真ん中です)。

 

既存のブランド価値など世間的な評価にあまり惑わされずに商品を選び、そして情報共有する、というのが、Z世代の消費行動の特色です。だからこそ、Z世代を軸とした独自のヒット商品が生まれるのでしょうね。

「SHEIN(シーイン)」など、Z世代発の象徴的なヒット商品でしょうね。中国発のECファストファッションのアパレルブランドです。設立は2008年で、現在220カ国ほどで展開しています。まず、北米で人気に気がつき、日本語版のサイトとアプリは昨年登場したことで、国内での注目度が急上昇。リアル店舗はなくネット通販に特化し、勢力を広げています。いわゆる越境ECの代表格と言ってもいいでしょう。

 

その特徴をざっとお伝えしますね。ボトムスもトップスも超低価格で、大半が、日本円にして1000円台。そしてAIを活用したデザインによって、毎日のように数千アイテムが新登場するという驚異的な戦術をとっています。かなり凝ったデザインの商品が揃っているのも人気の背景なのでしょう。

 

AIによるデザインワークには、既存のブランドの知財に抵触する商品を生み出さないかという懸念は残りますけれど、その話はここではとりあえずおいておきます。今回のコラムの主旨は、あくまでZ世代発のヒット現象というところでにあるので。

 

この「SHEIN」、実に面白いなあと思うのは、Z世代よりも年長の消費者、とりわけ40代以上の人は、その存在自体をあまり知らないという点にあります。

 

たとえば私と同年代(50代)のおじさんに尋ねてみると、まずすべての人が「SHEIN」という名すら「なにそれ?」という感じなんです。個人的な感覚でいえば、若年層に人気のアーティストの名前を知らないという以上に、おじさん層への浸透は著しく低いような気がします。

 

なぜか。これは私の想像ですが、「SHEIN」のプロモーション手法によるものかもしれません。既存メディアを通した宣伝活動はまずなく、動画共有サイトに代表されるようなSNSを通してプロモーションが進められていきました。それも10代〜20代がメインユーザーとなっているものを使って、です。だから、上の世代には知名度がないのでしょうね。

ここで、ちょっと個人的に興味が沸きました。「SHEIN」の主たる顧客層は女性なのですが、メンズのアイテムもかなりラインナップされています。だったら…。おじさんが「SHEIN」を買っていいのか。それを試してみたくなりました。

 

今回は3つのアイテムを注文。中国からの発送ということもあり、配送はどういう感じなのか興味津々でしたが、1週間で無事に届きました。この手の越境ECとしては十分に合格点でしょう。注文してから手元に届くまで、サイトやアプリ上で状況を逐一確認できるのもよかった。中国からの国際線貨物便の出発遅延状況まで具体的に知らせてくれていましたし。

 

商品の梱包にも問題はありませんでした。ただし、届いたシャツの中には、糸のほつれが目立つ部分も…。まあ、1000円台の商品だけに、あまり目くじらを立てるべきではないかもしれませんが。

今回購入してみた3点、テクスチャ(素材感)などの品質は、まあ値段相応にとどまると言えそうな印象でした。また、私が買ってみたアイテムに限らず、デザインが派手なものが多いので、おじさんが着こなすにはセンスがかなり問われるかもしれません。着る人を選ぶなあ、という感じ。

 

たとえるなら、街の古着屋さんで掘り出し物を探すプロセスに似ている気がしましたね。自分の手持ちの服を頭に描きながら、どうコーディネイトするのがいいか、という正解を見つけ出すような…。その過程をまず楽しみ、そして、選んだ結果をSNSにアップする、というのがZ世代による「SHEIN」とのつきあい方なのかも、とも思いました。そう考えますと、縫製などの品質が優れているかどうかは二の次なのかもしれません。

 

確実に言えるのは…。私のようなおじさんが「SHEIN」を着ていたら、若い世代にちょっと自慢できそう、というところでしょうか。いや、むしろ醒めた反応をされるか。50代がなに無理してるの、と。

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