menu

経営者のための最新情報

実務家・専門家
”声””文字”のコラムを毎週更新!

文字の大きさ

新技術・商品

第5話 なんという結末なんだ!

北村森の「今月のヒット商品」

今月は、ワサビおろし板の話をしましょう。「プロの料理人でもないのに、ワサビおろし板?」。いえいえ、家庭で手巻き寿司などを楽しむ夜、魚にお金をかけるよりも、ワサビに出費するほうが、実は満足度の高い味わいになったりします。少なくとも我が家はそう。魚って、値の張るものを求めたら、きりがないですからね。だったら、チューブのではなくて、本ワサビをおろして使ったほうが、手巻き寿司の味は格段にレベルアップします。ちっちゃくて痩せた本ワサビでもいいかと、そこそこで手を打つなら、スーパーで1本300円台も出せば買えます。
 
で、問題は、「なにでおろすか」なんです。普通の大根おろし金でやると、粗っぽい仕上がりになってしまって、全然ダメ。香りも食感もいただけません。かといって、寿司職人が使うような鮫皮のおろし板は、それこそ値段も高いし、使った後に洗うのは大変、かつ、放っておくと表面にカビがついたりして厄介です。
 
見つけました。今年の3月に発売になった、これがすごかった。
 
mori05_01.jpg
 
えっ?金属のおろし板だと、本ワサビをちゃんとおろせないのでは?
ところが、これを購入して、実際におろしてみると、それこそ鮫皮のおろし板以上に、本ワサビがふんわりと空気を含むように仕上がりました。ステンレスの板なのに……。
 
このおろし板は、静岡県三島市の老舗ワサビ屋である山本食品が、地元の町工場と協業して開発した商品です。その名は「鋼鮫(はがねざめ)」。値段は税込みで4,320円です。これを高いと見るか、安いと見るか。私は、自宅でここまでの仕上がりになるのなら、これは買いだと思いましたね。
 
mori05_02.jpg
 
たいして値段の高くない本ワサビをおろした図です。さして力も要らず、つまり素人でも簡単に、空気を含んだ、実に柔らかな口当たりのワサビになります。相当にきめが細かく、淡雪のような、と表現したくなる。安物の本ワサビなのに化けたなあ、というのが率直な感想。そして、食感だけでなく風味にも角がなく、舌に乗せると、香りと辛さがどんどん膨らんでいく印象です。
 
どうして、ステンレスの板なのに、鮫皮のおろし板を超えるほどに、ふんわりとできあがるのか。みなさん、すぐに想像がつくと思うのですが、ワサビをおろす面の凸凹パターンに、そのポイントがあるわけです。どんなパターンを刻んでいるのか。
 
mori05_03.jpg
 
んっ? これは、もしかすると……。
 
mori05_04.jpg
 
「わさび」という、ひらがなが並んでいる! なんだこれは。ふざけているのか。
 
この「鋼鮫」を開発した山本食品の社長に話を聞きました。この商品は、地元で金属加工に携わる町工場との出会いから始まったそうです。これだけの実力のある町工場だったのかと気づき、なにか一緒にできないかと考えた末、ワサビ屋なのだからワサビおろし板だ、という話になった。
 
先ほどお伝えしたように、ワサビというのは、いかに細かく空気を含ませるかの勝負です。おろし板の凸凹パターンの試作は、数百というパターンに及んだといいます。ワサビに触れる、おろす面のパターンが一方向ではダメで、あらゆる方向にパターンが刻まれているのがカギ、というのはすぐに分かったのですが、そこから先の答えが見えない。しかも目指すのは、鮫皮以上のできばえ。
 
そして、ようやくたどり着いたのが、これでした。「わさび」の文字って、確かにあらゆる方向を備えていますね。そうか、ワサビをおろすには「わさび」が最適だったのか、という話。
 
先日、業界がまったく異なるベンチャー企業の経営者と話を交わす機会がありました。商品でイノベーション(革新)を起こすのに必要なのは、未来からやってきたような新技術の存在を求めることにもまして、「最初にゴールを決めること」にあると、きっぱり語っていました。
 
「鋼鮫」は、ゴール(=鮫皮以上の仕上がり)を真っ先に決めたからこそ、完成を見たのだと思います。
 
ステンレスですから、使用後に洗うのはもう簡単。水でさっと洗い流せば終わりです。しかも誰がおろしても、まず失敗しない。地方中小企業発の、これは“小さいけれど立派なイノベーション”だと思います。

 

第4話 これも立派なEV(電気自動車)だ前のページ

第6話 ヒットに「不思議」はない次のページ

関連セミナー・商品

  1. 《大ヒット商品・新流行》超トレンド予測

    音声・映像

    《大ヒット商品・新流行》超トレンド予測

  2. 2023年《大ヒット商品の作り方》

    音声・映像

    2023年《大ヒット商品の作り方》

  3. 2022年《超トレンド予測》

    音声・映像

    2022年《超トレンド予測》

関連記事

  1. 第28話 自分自身が外に打って出ること

  2. 第53話 DXとは、誰のため? 何のため?

  3. 第85話 ブータンの「ABC」 *「D」もあり

最新の経営コラム

  1. 第347回【勝ち組企業づくり編⑩】「強く必要とされる会社」となる

  2. 第102回 インボイスの管理を定期的に点検する

  3. 第161回 ディープフェイク

ランキング

  1. 1
  2. 2
  3. 3
  4. 4
  5. 5
  6. 6
  7. 7
  8. 8
  9. 9
  10. 10
  1. 1
  2. 2
  3. 3
  4. 4
  5. 5
  6. 6
  7. 7
  8. 8
  9. 9
  10. 10

新着情報メール

日本経営合理化協会では経営コラムや教材の最新情報をいち早くお届けするメールマガジンを発信しております。ご希望の方は下記よりご登録下さい。

emailメールマガジン登録する

新着情報

  1. キーワード

    第53回 新しい働き方
  2. サービス

    60軒目 「小商圏における同じ見込客の幅広い利用シーンの落とし込み方法とは」
  3. 健康

    第73号「ベテランの活躍」
  4. マネジメント

    人を活かす(9) 仰木彬の「そのままでいい」
  5. 健康

    第32回 石和温泉(山梨県) 「単純温泉」は単純ではない!
keyboard_arrow_up