「富士山をバックに、連凧が上がっていく映像、青い雲」は、お線香の「青雲」のテレビCMである。九割の人が「見たことがある」という知名度の高い、ブランド力のある商品である。日本香堂はその商品力を礎に、お線香の製造・販売でトップを走り続けている薫香業界のリーディングカンパニーである。市場全体で約5割、日用品チャネルでは7割以上のシェアを持つ。
お線香・ローソク等の仏事関連の商品を手がけながら、お香(インセンス)、ギャレ(セラミックポプリ)、サシェ(匂い袋)など、ホームフレグランス製品、香りのインテリア製品など、幅広い商品を提供している。老舗といえる同社だが、歴史の古い薫香業界にあっては、むしろ後発に属するという。独自の戦略で業界に新風を吹き込み続け、全国制覇、さらに欧米、アジア、南米の海外進出も果たしている。
同社の印象的なのは、業界初のテレビCMを打ち出したことである。暗いイメージにあったお線香の商品のポジショニングを明るく爽やかなイメージのテレビCMで一新したという功績がある。徐々に形を変えながらも、ベースにおいては変わらない戦略をとっている。お線香ブランドの商品の「毎日香」「青雲」のテレビCMは依然続いている。2大ブランドに続くお線香「かたりべ」もテレビCMを展開している。
同社は12年間続けている文化事業として「ふるさとのお盆の思い出」絵画コンクールを実施。初年度約7000点で始まった応募総数も、約7万点と10倍に増え、今では日本有数の作品系コンクールに発展している。小仲正克社長は「この絵画コンクールを通して、子供たちは家族のことをよく見ているし、観察しています。お祭りや伝統行事を大事に思っている感性も育っています」という。
老舗企業だからこそ新しいことに挑戦し、自ら市場を創造するために仕掛けを積極的に展開している。「喪中はがきが届いたら」キャンペーンもその一つ。「進物用のお線香」の需要喚起を狙ったものである。時代を先取りし、需要喚起を図り、業界を牽引していく企業であり続けるためにも、「仮説を作れ」「デッドラインを決めて仕事をしろ」が社員に対する小仲社長の口ぐせである。
旧いものと新しいものが上手くかみ合って、新しい仕掛けを提案するという元気な企業である。小仲社長の販売促進のアイデアは「心に響くこと」と「現場感覚と時代感覚の先取り」の中に眠っているようだ。精神文明の時代に突入していて、震災後、特に、人と人の絆の重要さがクローズアップされてきているが、「消費者の心に響くことをどう訴えかけるか」に力を入れている企業である。
上妻英夫