■有賀泰夫(ありがやすお)氏
1982年から約40年間にわたり、アナリスト業務に従事し、クレディ・リヨネ証券、UFJキャピタルマーケッツ証券、三菱UFJモルガンスタンレー証券…等で活躍。主に食品、卸売業、バイオ、飲料、流通部門を得意とし市場構造やビジネスモデル、企業風土等に基づく分析と、キャッシュギャップを重視した銘柄分析、売上月次データから導き出す株価10倍銘柄発掘の手法に定評がある。日経アナリストランキングにて常にトップグループをキープする実力派としての活躍し、09年独立。小売業、IT企業にカバー分野を拡げ、機関投資家や個人資産家向けに、独自の分析情報を提供。著書に「日本の問屋は永遠なり」(大竹愼一氏との共著)、講話シリーズに8年に渡り的中率90%を誇る「株式市場の行方と有望企業」シリーズと株式投資の考え方とやり方をテーマ別に解説する「お金の授業 株式投資と企業分析」シリーズがある。
やまみは1975年に広島でスタートした豆腐メーカーであり、中国以西を制覇して、2012年に関西、そして2019年に関東に進出し、ややもたもたした感はあったが、いよいよ関東市場の本格浸透が始まったようである。
同社は日本で唯一、豆腐を全商品全自動で製造するメーカーである。前期の営業利益率は5%にすぎないが、これは富士工場が償却負担と低稼働率で赤字のためで、売上の大半を占める本社工場の営業利益率は15%であり、豆腐メーカーとしては圧倒的な利益率を誇る会社である。
2016年の上場来、やまみ(2820)の成長ストーリーは極めて説得力の高いシナリオとして注目されてきた。しかし、現実問題としては上場後数期間の業績がややもたついた。見かけの業績はもたついたが、現場の商売自体は順調ゆえに、全国展開の大手小売業の要請もあり、予想以上に関東進出が早まった。そのため、償却増によって一旦利益が大きく落ち込んだ。
加えて、関東は中部以西と比較してこれまでの競争が緩やかであり、体力のある豆腐メーカーが多く、また関西での同社の存在感も十分伝わっていたことから、同社進出に対して関西進出時とは比べ物にならないほどのライバルの抵抗に遭った。そのため、量販店との交渉段階の感触は良かったものの、いざ成約段階で既納入メーカーの抵抗により、関東での売上の初速が思ったほどではなかったことも業績落ち込みの要因となった。
しかし、コスト競争力の差は明らかであり、時間の経過とともに関東でも同社の製品が量販店店頭を着実に侵食し始めている。特にこの秋口からは、より以上の小売業で、新規採用や採用品目の増加が始まっている。
同社の直近の戦略は、まずは大手の競合が少ない一丁40円台の安売対象の製品から浸透させる計画である。すでに、ライフの店頭では35円で半年ほど前から陳列されているが、10月からはベイシア(2021年2月末で139店舗)でも全店で採用される模様である。その他、西友では徐々に品数が増えており、まいばすけっとではこれまで2分の1の店舗に木綿豆腐が置いてあるのみであったが、現在はより付加価値の高い厚揚げなども並び始めた。
また、大豆油、大豆、電気料金などの値上がりに対応した値上げに前期から取り組んでいるが、まずは本社工場がカバーする中国以西では値上げが順調に進む模様。これはそもそも同社以外にすでにローコストで供給できる大手企業がいないため、量販店も飲まざるを得ない模様である。
関東においても、今後徐々に値上げが浸透する見通しである。そもそも同社の納入価格が最も低いため、他に代替できるところないことによるものである。原料価格は通期で4-5億円上がる見込みであるが、タイムラグはあるものの値上げによって、むしろおつりがくると述べている。単純な値上げの場合もあるが、より付加価値の高い製品に代えて値上げを行うブラッシュアップ値上げなども併せて行っている。9月から本社工場がカバーする地域で第1回目の値上げが行われ、11月からはブラッシュアップ値上げを含めて、関東でも浸透を見込んでいる。
前期まで大きく増加していた新工場建設による減価償却費が、今期からは減少に転じることもあり、いよいよここから先は売上拡大に加え、業績拡大が明らかになり始めるのではないかと考えられる。
有賀の眼
豆腐市場は約8000億円あり、中堅、中小、零細の市場で、推定で同社は売上で第2位である。豆腐市場の将来を予測すると、おそらく、かつてのパンの市場と同様で、零細で高めの豆腐を地域で販売する企業は、ベーカリーのように生き残り、中小は淘汰され、大手流通小売業の市場は上位の寡占化が進むものと思われる。
同社はその中でトップを争う企業であり、現在のトップ企業の相模屋食糧(未上場)が付加価値製品に特化している面もあって、低、中価格帯を制覇する方向で進んで行くと考えられる。
そんな観点で考えると、広島から出てきた会社が、一つの巨大な市場で革命を起こし、大企業に変貌して行くのを見ることはそれほど経験できることではないので、非常にワクワクするのではないでしょうか。
やまみコーポレートサイト
https://www.yamami.co.jp/