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第70回 姥湯温泉(山形県) 標高1300メートルに湧く絶景露天風呂

高橋一喜の『これぞ!"本物の温泉"』

■噴火口跡に湧く秘湯

「姥湯(うばゆ)温泉までは道が細くて、カーブも多いですよ」。姥湯温泉の手前に位置する滑川温泉のスタッフに、姥湯温泉までの道のりについて尋ねると、こんな答えが返ってきた。怖気づきそうになるが、ここまで来て引き返すわけにもいかない。
 姥湯温泉「桝形屋」は、山形県南部に湯けむりを上げる一軒宿で、「米沢八湯」のひとつに数えられる(ちなみに、滑川温泉も米沢八湯のひとつ)。大日岳の山麓、大昔の噴火口跡に温泉が湧いており、福島県との県境も近い。標高1300メートルという高所にある山の秘湯である。
 米沢市は秘湯の宝庫であるが、なかでも姥湯温泉は、雑誌などの「秘湯特集」でもよく取り上げられる秘湯中の秘湯だ。
 滑川温泉をあとにし、車で姥湯温泉へと続く一本道へと入る。噂通りに道が細く、急カーブも続くので少々不安になるが、しばらく進むと、だいぶ道が広くなる。所どころガードレールのない箇所があるが、舗装はされているので想像していたよりは走りやすい。
 だが、途中、切り返しをしなければ曲がれないような急カーブがあったり、対向車と鉢合わせになって長い距離をバックしたりするなど、気を抜けない道が続く。
 4キロの道のりを走り切ると、雪がところどころに残る険しい山々が姿をあらわす。その切り立った山の渓谷に挟まれるようにして、姥湯温泉「桝形屋」はある。

■五指に入る「山の絶景温泉」

 姥湯温泉の開湯は、室町時代(1533年)とされ、桝形屋の初代が金山を探しているときに、山姥に教えられて発見したとされる。姥湯温泉という名前も、このエピソードに由来する。なお、現在の当主は17代目である。
 駐車場には、10台前後の車が停まっていた。よく見ると、東京のナンバーが多い。いかにも、都会の人が好む秘湯なのだろう。この日は休日ということもあり、若者を中心に多くの人が訪れていた。
 宿までは、谷川にかけられた吊り橋を渡って谷沿いを歩く。5分ほどの道のりだ。峡谷沿いに細道が続くアプローチが、秘湯感を盛り上げてくれる。なお、荷物が多い人は、駐車場と宿を結ぶ荷物専用のゴンドラを利用できる。

 場所が場所なので、山小屋風の宿をイメージしていたが、木造ながら洗練されたシックな建物である。
 宿泊棟の奥の岩場に、混浴露天風呂「山姥の湯」がある。20人ほどが入れそうな野趣あふれる岩風呂は、切り立った山々を見上げる絶好のロケーション。目隠しになるような囲いがないので、女性は入浴しづらいが、そのぶん湯船から眺める景色と開放感は、感動的である。これまで数々の「山の絶景温泉」に入ってきたが、ロケーションのすばらしさでは、5本の指に入るだろう。

■乳白色の酸性泉

 湯船は全部で4つ。露天風呂は、混浴露天風呂のほかに、女性専用風呂がある。内湯は男女別の檜風呂があるが、こちらは宿泊者専用である。
 ロケーションだけでなく、温泉そのものもすばらしい。源泉は谷の岩壁から噴き出す。6カ所の湯口のうち1本だけを使用し、他は川へ流しているという。なんと贅沢なのだろう。
 湯船には、青色をおびた白濁湯が源泉かけ流し。山の秘湯には、白く濁った湯がよく似合う。温泉の色も、秘湯感を盛り上げてくれる重要な要素のひとつだ。
 加水も加温もしていないピュアな源泉は、パンチのきいた酸性泉。源泉温度が高めなので、10分も浸かっていると大量の汗が噴き出してくる。
 湯船のふちで涼んでいると、ひんやりとした谷風が火照った体をやさしく包んでくれた。道のりは少々大変だったけれど、「ここまで来てよかった」と心の底から思わせてくれた瞬間である。

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