menu

経営者のための最新情報

実務家・専門家
”声””文字”のコラムを毎週更新!

文字の大きさ

人事・労務

第24話 政府が推進する「人的資本経営」と中小企業の人事戦略

賃金決定の定石

 このところ「人的資本経営」というキーワードが取り上げられることが増えてきています。

 

 政府が推進する「新しい資本主義」の中でも重点投資の4つの柱の最初に掲げられているのが、人への投資と分配です。これまでもヒト・モノ・カネの3大経営資源うち、ヒト(=従業員)に関してはそのモチベーション次第で生産性のみならず、商品・サービスの質にも大きく影響を与えるものと考えられてきました。これを更に一歩進めて、価値を高めていくことができる「資本」として従業員を捉えたうえで、「その人的資本の価値をいかに高めていくか」、「経営戦略と相まってどのような人事戦略を展開していくのか」を企業に問うのが人的資本経営の根底にある考え方です。

 

 これは、人的資本経営への展望と具体的な計画を明示していかなければ、マーケットにおける投資対象として選ばれない時代になったということを示しています。「人的資本経営の考え方」は、近々わが国でもコーポレートガバナンスコードに反映され、有価証券報告書への記載が義務付けられるものと思われます。

 

 対象となるのは上場企業ですが、非上場の中小企業も他人事ではいられなくなります。というのも、「人的資本経営」への展開は、上場企業や大手企業において、優秀社員が自身の成長を実感できるような人事体制の構築や、人材育成に対する積極的な姿勢の外部へ向けた発信を促し、新規学卒者や転職希望者もまた自身の成長が期待できる企業への指向を強めると考えられるからです。すなわち、優秀な人材を継続的に獲得しようという企業は、企業規模の大小にかかわらず、経営理念とともに人事戦略をオープンにしていくことが求められる時代になったということです。

 

 マイナビ転職が実施した新入社員意向調査では、新入社員のうち10年以内に退職する予定であるとの回答が51%に達しました。また、リクルート社の実施した新入社員意識調査では、「定年まで勤めたい」11%、「どちらかといえば定年まで勤めたい」21%、両者を合わせても3割に過ぎません。こうした調査結果からは、「1つの会社にはこだわらず、成果への貢献を実感しつつ、自らの成長を図りたい」と考えている若者像が浮かび上がってきます。

 

 新卒か中途かに限らず、正社員獲得競争はこれからも続いていきます。そのような状況下では、労働力の多様化といわれるように、労働時間や就労場所が限定された限定正社員やパート・アルバイト、契約社員・嘱託社員、外国人労働者、女性の活躍推進など、我が社にとってのベストミックスを考え、より効率よく生産性を上げられるよう取り組まなければなりません。

 

 もっとも人材獲得のための環境も刻々と変化しています。

 

 例えば、外国人技能実習生。農業法人や建設業、食品製造業などの中には技能実習生の労働力を頼りにして、その受け入れを続けてきた中小企業も数多くありますが、人手不足は日本だけにとどまりません。深刻な人手不足に悩むオーストラリアの最低賃金は21.38$(円換算にして約2,000円)、これは日本の最低賃金961円のおよそ2倍に達します。これまでは日本の働きやすさや賃金水準の高さ、日本製品の品質の高さなどへのあこがれもあって、東南アジアからの多数の技能実習生からその実習先として日本が選ばれてきましたが、ここまで賃金格差が広がってくると、今後はその受け入れ数も減少することが予想されています。

 

 今後10年先、20年先を見据えて、我が社の発展に必要な人材をどう獲得し、どのように育てていくのか。先の見えにくいVUCA(ブーカ)の時代。中小企業であっても、いや中小企業だからこそ、具体的な人事戦略を描き、将来への成長ストーリーをわかりやすく伝えていくことで、将来を担う人材の定着を図っていただきたいと思います。

第23話 賃上げをめぐる動向と採用・定着を見据えた企業対応前のページ

第25話 所定内労働時間と賃金次のページ

関連セミナー・商品

  1. 賃金処遇と人事施策のやり方

    音声・映像

    賃金処遇と人事施策のやり方

  2. 緊急事態下での「賃金と処遇」

    音声・映像

    緊急事態下での「賃金と処遇」

  3. 役員報酬・賞与・退職金の正しい決め方

    音声・映像

    役員報酬・賞与・退職金の正しい決め方

関連記事

  1. 第32話 中途採用者(転職者)と転職後の賃金

  2. 第2話 年末賞与支給のための準備に向けて

  3. 第19話 男女の賃金格差の開示義務化と女性の活躍推進の必要性

最新の経営コラム

  1. 朝礼・会議での「社長の3分間スピーチ」ネタ帳(2024年11月20日号)

  2. 第七十八話 展示会後のフォローで差をつける「工場見学の仕組みづくり」

  3. 第219話 少人数私募債の相続対策

ランキング

  1. 1
  2. 2
  3. 3
  4. 4
  5. 5
  6. 6
  7. 7
  8. 8
  9. 9
  10. 10
  1. 1
  2. 2
  3. 3
  4. 4
  5. 5
  6. 6
  7. 7
  8. 8
  9. 9
  10. 10

新着情報メール

日本経営合理化協会では経営コラムや教材の最新情報をいち早くお届けするメールマガジンを発信しております。ご希望の方は下記よりご登録下さい。

emailメールマガジン登録する

新着情報

  1. 社員教育・営業

    第8講 クレーム対応はあなたの最初の話の聞き方、話し方で明暗は分かれる
  2. 戦略・戦術

    第41話 「TIBORで銀行金利率を下げよ!」
  3. 健康

    第76回 十勝岳温泉(北海道) 道内最高所に湧く絶景の露天風呂
  4. 教養

    第55回 『リーダーのための経営心理学』(著・藤田耕司)
  5. 経済・株式・資産

    第87話 リスク防止へ舵を切る中国財政・金融政策
keyboard_arrow_up