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人間学・古典

第15回 魅力の源泉 宋の景公の自己犠牲

経営に活かす“十八史略”

前回、取り上げた唐(とう)の太宗(たいそう)は、 次男でありながら自らの実績によって父親の厚遇を勝ち取り、 兄を殺してトップに躍り出ました。この経緯だけをみるとずい分 、ごう慢な人間になりそうですが、 実際には優秀な人材を集めて彼らの声をきちんと聞く明君となったのです。

企業経営者も知恵を絞り、 策を断行して実績をあげることが求められますけれども、 唐の太宗のようにうまく出来るかというとなかなか難しいでしょう。

例えば、 カリスマ社長の後継者としてトップに立ったものの、 自らの手腕は先代にまったく及ばず、 先代を超えることが出来ずに悩んでいる方は少なくありません。

では、 そんなトップは人材を集めることが出来ないかといえば、 集められます。 人の魅力は何も実績の有無だけではないのです。

「十八史略」にこんな話があります。

春秋(しゅんじゅう)時代、 宋(そう)の国に景(けい)公という君がいました。

ある年に、 不吉と考えられていた火星が二十八宿(しゅく)(赤道・黄道(こうどう)付近で天球を二十八に区分し、それぞれを一つの宿としたもの)の一つ、 心宿(しんしゅく)の位置で動かなくなりました。

この心宿は地上に割り当てると宋の領域に当たるので、 景公は何も凶事が起きなければよいがと心配していたところ、 天文官の子韋(しい)がこう進言してきました。

 「災難を逃れるには、災いを宰相に移されるのがよいでしょう」

 景公は答えました。

 「宰相は私の股(もも)や肱(ひじ)となって動いてくれる大事な存在だ。 移すわけにはいかぬ」

子韋はまた進言しました。

 「では、災いを民に移されるとよいでしょう」

 景公は答えました。

 「人君は民を頼りとしているのだ。 移すわけにはいかぬ」

子韋はさらに進言しました。

 「では、災いを歳(とし)に移されるとよいでしょう」

 景公は答えました。

 「災いを歳に移せば、飢饉が起こって民が苦しむだろう。 私は民のための君主なのだから、 移すわけにはいかぬ」

 子韋はこう言いました。

 「天の神は高いところにおられますが 、低い地上の事をお聴きになって、 善人には福を、悪人には禍(わざわい)を与えられます。 わが君は今、 君としての善言が3つございましたので、 きっと火星は動くことでしょう」

ただちに観測してみたところ、 火星は心宿から1度ほど移動していました。

 自己を犠牲にして他人を助けられる人物は、 いつの世も尊い存在です。 仕事の才能の有無以前にこうした徳を持っていることが 魅力ある人物の必須条件なのです。

 ある中小企業で、 先代の社長が急に亡くなり、 30代半ばの息子が後を継ぐことになりました。 さぞ難しい運営を強いられているものと思いきや、社長も従業員もうまくいっていると言い合います。 従業員に尋ねてみたら、

 「今の社長はとても優しくて、私たちの意見をよく取り上げてくれる」

 と言うのです。 笑顔のステキな若社長は、就任前から社員の心をつかんでいました。 実績はそれほどありませんでしたが、 これなら当面は心配ありません。 少しずつ自分のやり方を作り出していくことでしょう。

 リーダーとして認められるには、実績がどうこうの前に、

 

  人の意見に耳を傾け、「最後は自分が責任を取る」と言い切る

 

 ことが必要なのです。

 
 
 
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第14回 賢人を集める 唐の太宗の政治前のページ

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