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人間学・古典

第30回 情報網を張り巡らす 蘇秦と張儀の成功法

経営に活かす“十八史略”

 なるべく血を流さずに勝つには洞察力が必要です。これは、黙って座ればピタリと当たる、といった占いや霊能力などではありません。現象をしっかりと観察し、そこから法則性を読み取る力のことです。

 ただ、現象を観察するといっても、1ヵ所でなく、多くの現場を見なければならないこともありますから、集団同士の戦いの場合、一人の目では追いつきません。そこで、

  ・情報網を張り巡らせる

 ことが必要となります。いかに多くの正しい情報をつかむか。情報をつかむかつかまないかで戦い方は大きく変わってくるのです。

 「十八史略」にこんな話があります。

 戦国時代、蘇秦(そしん)という者がいました。彼は洛陽(らくよう)に生まれ、鬼谷(きこく)先生を師として遊説(ゆうぜい)術を学んだ男です。

 はじめ、秦(しん)の恵(けい)王に天下統一の策を説きましたが登用してもらえませんでした。そこで、次には燕(えん)の文(ぶん)侯のもとを訪れて合従(がっしょう)策を説き、趙(ちょう)と同盟して秦に当たることを勧めます。文侯は蘇秦に旅費を与えて、趙に遣わしました。蘇秦は趙の粛(しゅく)侯にこう説いています。

 「ただ今、諸侯の兵力を合わせると秦の10倍にはなります。諸侯が同盟し、協力して西の秦を討てば、秦が敗れるのは間違いありません。粛侯のためを考えますと、6国が合従して秦を退けることこそ、最高の策であると存じます」

 粛侯はそこで蘇秦に旅費を与えて、諸侯を説いて回らせました。蘇秦は世俗のことわざをもって諸侯に説きました。

 「鶏の口となっても、牛の尻になってはなりません」

 こうして、燕(えん)、趙(ちょう)、韓(かん)、魏(ぎ)、斉(せい)、楚(そ)の6国による合従が成立したのです。

 一方、魏の人で張儀(ちょうぎ)という者がいました。青年時代、蘇秦と共に鬼谷先生を師と仰ぎ、遊説術を学びました。

 かつて楚の国に遊説に出かけ、楚の宰相から拷問(ごうもん)の侮辱を受けました。家に帰り着くと、妻が怒って文句を言いましたが、張儀は平気な様子でこう言いました。

「俺の舌を見てくれ。どうだい、まだついているかい。舌さえあれば大丈夫だ」

 蘇秦が合従を成立させたとき、蘇秦は訪ねてきた無職の張儀をわざとぞんざいに扱って怒らせ、気づかれないように旅費が彼に入るように配慮して、敵対する秦に向かわせました。秦をけん制するために張儀を送り込んだのです。無事に秦に登用された後、事情を知った張儀はその恩に感じて言いました。

 「蘇秦が生きている限り、私は彼に不利になることは何も言うまい」

 しかし、蘇秦が趙を去って合従がこわれると、張儀は専(もっぱ)ら連衡(れんこう)説を唱え、六国が皆、秦に服従するようにはかったのです。

 秦の恵王のとき、張儀は秦軍を率いて魏を攻め、その一邑(いちゆう)(邑は地方都市、集落の意)を取りましたが、それをいったん魏に返しました。そうして魏をだまし、秦への詫(わ)びの印として、秦にとってもっと価値のある別の土地を割譲させます。

 張儀は魏から帰ると秦の宰相となりました。しかし、やがて秦を出て魏の宰相となります。これも秦の利益を図るためにしたことなのです。秦の襄(じょう)王のとき、秦にもどってまた宰相となりました。さらにその後、ふたたび秦を出て魏の宰相となり、そこで死んだのです。

 合従説を説いた蘇秦と連衡説を説いた張儀。まったく正反対の考え方を諸侯に訴えた2人ですが、実は裏でつながっていました。2人とも、諸国の実情をしっかりと押さえており、もっている情報を駆使して諸侯を説得し、従わせたのです。情報の少ない者は、情報をしっかりつかんでいる者に翻弄されるということです。

 企業においても、まずは、

  戦略を立案するために必要な情報の収集ルートを構築すること

 が大事です。それさえ出来ていれば、「アイデアが湧かない」と悩む社長でも、喜ばれる商品やサービスが浮かんでくるものなのです。情報ルート作りで汗をかくようにしてください。

 これにて「十八史略」の解説を終了します。

 「十八史略」には、当コラムで取り上げた以外にも面白くて役に立つ物語が数多く掲載されています。機会を作ってお読みになることをお勧めします。長い間お読みいただき、誠にありがとうございました!

 
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第29回 「死せる孔明、生ける仲達を走らす」 孔明の洞察力前のページ

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