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人間学・古典

第26回 法を守らせるには 公孫鞅の改革

経営に活かす“十八史略”

 企業経営にはルールが必要です。始業、終業の時刻に始まり、制服や身だしなみの決まり、給与規定、懲罰規定など、さまざまなルールがあり、経営者も従業員もそれに従って行動しなければなりません。

 しかし、現代でも重役出勤などといって、社長が遅く出社しても見て見ぬふりをする風潮があります。これでは社員が不満を抱えても仕方がないでしょう。

 中国で、法の運用を徹底して国を発展させたのが公孫鞅(こうそんおう)という人でした。

 「十八史略」を読んでみましょう。

 戦国時代の初期、黄河・華(か)山以東に、強国が6つ、小国が10余ありましたが、どの国も皆、秦(しん)を野蛮国とみなし、排斥して、諸侯の会盟(かいめい)(覇者が諸侯を集めて盟約を結ぶこと)にも参加させませんでした。

 そこで秦の孝(こう)公は、触(ふれ)を出します。

 「他国からの客人、わが家臣を問わず、今までとは違う新しい策を出して秦を強くしてくれる者があれば、私はその者に高い地位と領地を与える」

 これを知り、衛(えい)の公孫鞅(こうそんおう)が秦にやってきました。彼は孝公の寵臣を介して孝公にお目見えし、まず、

 ・帝道(堯(ぎょう)・舜(しゅん)らが行った、無為にして人民を教化する政治のやり方)を説きます。次に

 ・王道(夏(か)の禹(う)王、殷(いん)の湯(とう)王、周(しゅう)の文(ぶん)王が行った、仁義道徳で人民を教化する政治のやり方)を説きました。最後に

 ・覇道(斉(せい)の桓(かん)公、晋(しん)の文(ぶん)公らが行った、武力をもって諸侯を支配する政治のやり方)

 を説き、そして富国強兵の具体策を示したのです。孝公は覇道や富国強兵の話を聞いて大いに喜び、ただちに法令を変えようと思ったのですが、人民の批判が自分に集まることを恐れて迷います。公孫鞅はこう言って決断を促しました。

 「人民というのは、共に物事の始めを相談することはできないけれども、共に物事の成功を楽しむことはできるもの。気になさらず、進めることです」

 孝公はついに法令を改定しました。次のような内容です。

 「人民に5軒と10軒の隣り組を作らせ、互いに監視し合い、1軒に罪を犯す者あれば、組内の者、皆同罪とする。人の不正を知りながら告発しなかった者は腰斬(ようざん)の刑に処す。不正を告発した者は敵を斬ったのと同じ賞を与える。不正を隠した者は敵に降参したのと同じ罰を与える。戦(いくさ)で手柄のあった者はそれぞれの功の軽重(けいちょう)に応じて爵位を授ける。個人的な争いには程度に応じて刑を科する。老若男女、皆、力を合わせ、耕作、機織(はたおり)を本業とし、穀物と織物を多く納める者は夫役(ぶやく)(労働で納める課役)を免除する。それ以外の商工業などを仕事とする者、怠けて貧しい者は検挙して、その妻子を没収して官の奴隷とする」

 こうして法令が出来上がりましたが、すぐには公布しませんでした。

 まず、高さ3丈の木を人通りの多い市中の南門に立てました。そして、民を募り、

「これを北門に移した者には10金を与える」

 と告げたのです。人民はこれを怪しんで、移そうとする者は誰もいませんでした。そこでさらに、

 「これを北門に移した者には50金を与える」

 と告げます。すると一人の者が出て、それを移したのです。

 公孫鞅はすぐに50金を与えました。こうして法がきちんと実行されることを示したうえで、新しい法令を公布したのです。

 あるとき、太子が法を犯しました。公孫鞅が言うには、

「法令を人が守らないのは、上に立つ者がこれを犯すからである。しかし、世継ぎである太子を刑に処すわけにはいかない」

 と。そこで、守(もり)役の公子虔(けん)を処罰し、さらに教育係の者を入れ墨の刑に処しました。これを見て、秦の人は皆、法令に従うようになったのです。

 新法を行うようになって10年が経過。道に落し物があっても誰も拾わず、山には盗賊も出ません。どの家でも物が満ち足り、満足し、人民は国の戦いともなれば勇んで戦うけれども、個人の争いには消極的になり、町や村は大変よく治まりました。

 こうして秦は国が富み、兵が強くなったのです。孝公は公孫鞅の功を賞して、商(しょう)・於(お)以下15の邑(むら)を与えたので、彼は商君(しょうくん)と呼ばれるようになりました。  

 公孫鞅の大改革により、秦は富国強兵を実現したのです。

 法で決めた通りに実行し、お上が約束を守ることを示す

 ことによって民の信頼を得た結果、国が変わりました。本質的には企業も同じ。決めたことを社長が実践すれば、会社は変わります。

 
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