皆さん、こんにちは。今回も私の著書「改善の急所101項」から1項を紹介し、実践編として実例を挙げます。
【急所60】モノを持って運ばない。移動させるのに動力を使わない(142頁)
工場の中に入ると、人がモノを持ってエッチラオッチラ運搬している光景をよく見かけます。あるいは、荷物をたくさん積んだフォークリフトが走り回っている工場もたくさんあります。
しかしモノを運ぶことは、トヨタ生産システムの7つのムダの中の「運搬のムダ」です。ナゼ運搬がムダかというと、いくら運搬しても付加価値は付かず、位置が変わるだけだからです。すなわち、位置を変えないで済むようにできたら、運搬は不要です。
それでは、「モノを持って運ばない」とはどういうことか、そして動力なしで運べるのか?その方法を今回は説明いたします。
さて、北海道でとれた鮭を九州の人に食べてもらい、お返しに九州でとれたフグを北海道の人に…ということであれば、方法は飛行機や列車やトラックといろいろありますが、北海道~九州の距離は変わりませんから、どちらにしても運搬は発生します。
ところが、工場内の運搬となると北海道~九州の運搬とはその成り立ちが違います。工場で運搬が必要な理由は、工程が別々の建屋にあって離れているからとか、連続した工程の出口と入り口がつながっていないから、あるいは工程間にタクト差があり、中間在庫がたまってしまうので、といった工場側の理由によって発生している運搬が多いです。
これから世の中が好景気に向かうと考えると、増産対策などでレイアウト変更を行う可能性が高まります。そこで今から、工場内の運搬はムダであると考え続けていれば、レイアウト変更のタイミングを逃さず、運搬のムダ取り改善を織り込めます。
それでは運搬のムダ取りに取り組む際に、まずは運搬を大まかに2種類に分けて考えてみましょう。一つ目は、パレットにたくさんのモノを載せて運ぶ運搬を「大きい運搬」、さらに、組立コンベアラインで部品を頻繁に取る動作は「小さい運搬」です。
大きい運搬は、レイアウトで解消できることが多いと思います。小さい運搬は、コンベアを使った組み立てからセル生産方式のような「一回つかんだら放さないで、一個ずつ完成させるやり方」で、頻繁な取り置きを解消することができます。
しかし、どうしても運搬が必要な場合は、「持って運ばない、動力を使わない」ようにできないでしょうか。というのは、もしモノが同じフロアー上で移動されるのであれば、その移動のほとんどは平行移動であるはずです。そして、工程間の運搬はいつも同じ経路をたどることが多いと思います。例えばプレス設備の位置はもちろんいつも同じですが、作業をするポイントの高さもいつも同じです。
そうだとすると、もし各ポイントでの使用する高さを揃えることができれば、上げたり下ろしたりしないで同じ高さの台車に乗せて滑るように移動させれば、すべての仕事ができるのではないでしょうか?どんなに重いものでも単純な平行移動であれば、台車で軽く動かせるものです。
そもそもフォークリフトはその名の通り、リフト(持ち上げ)が仕事です。長距離の運搬をするためのものではありません。工場内をビュンビュン走ると危険です。そう考えて、「持ち上げないで、近ければすべて台車でできないか」といった見方をするのです。
たとえば、福島県のN社では、工場内のすべてのモノの移動は小さい台車で行われます。昔は大きなフォークリフトがビュンビュン走る工場でしたが、設備レイアウトを工程順番に並べ直し、作業高さを統一したので、今では第一工程に材料が入ると、すぐに最終工程に到達します。リードタイムが激減し、その結果売上が激増しました。
涼しくなって頭がスッキリしたところで、これまでの運搬に関する固定観念をすべて取り払い、素晴らしい流れを作り上げて頂きたいと思います。まだまだ昼間は暑い日がありますが、夜になると鈴虫の声が聞こえてきて秋らしさを感じます。「芸術の秋」、「読書の秋」、「スポーツの秋」、「食欲の秋」、そして「改善の秋」です。みんなで元気に改善を実行いたしましょう!
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