■桑原晃弥(くわばら てるや)氏/「トヨタ式5W1H思考」著者/(元)カルマン顧問
慶応義塾大学卒業後、業界紙記者として活躍。トヨタ式の指導や導入で有名な若松義人氏の会社の顧問として、トヨタ式の実践現場や、トヨタ生産方式の大野耐一氏直系のトヨタマンを幅広く取材。トヨタ式の書籍やテキストなどの制作を主導。また、国内外を問わず創業者や起業家の研究をすすめ、人材育成や成功法を発信し続けている。主な著書に『トヨタ式「人を動かす人」になれる6つのすごい!仕事術』、『トヨタは、どう勝ち残るのか』他多数。講話収録物に『トヨタ式 経営の技術』、全国経営者セミナー講演収録『トヨタ式 人と会社を動かす実践術』を発刊。
※本コラムは、桑原晃弥講師が「トヨタ式 経営の技術」音声講話の発刊にあたり、「なぜ、トヨタ式で会社が伸びるのか?」全五回にて書き下ろしたものです。第1回「改善で変化を日常にしよう」はこちらから
トヨタ式でよく知られている仕組みの1つに「見える化」があります。最も有名なのは「問題の見える化」ですが、ほかにもいくつもの「見える化」があり、これらを使いこなすことでより効率の良い仕事の進め方が可能になります。
1、問題の見える化
トヨタ式を実践している企業の生産現場では、不良が出るなどの異常に気付いた場合、働いている人が紐などを引っ張って生産ラインを止めることになっています。異常を感知したら機械が自動的に止まることを含めて、「異常があればラインを止める」というのがトヨタ式の基本中の基本です。
なぜわざわざラインを止めるのでしょうか?本来なら不良品が出たとしても、脇によけておいて、ラインをそのまま動かせばいいわけですが、止めるのには「異常が起きたことをみんなに見えるようにする」という意味があります。
これがトヨタ式の「問題の見える化」です。では、なぜ問題をみんなに見えるようにする必要があるのでしょうか?理由は「見えれば知恵が出るが、見えなければ知恵は出ない」からです。ラインを止めて、「問題が起きたぞ」ということがみんなに見えれば、「何とかしなければ」「原因は何だろう」と考えることになりますが、ラインを止めることなく動かし続ければ、誰も困りませんし、問題が起きたことにも気づきません。これでは知恵は出ません。
みんなの知恵をつかって改善をしたいのなら、問題をみんなに見えるようにする。それがトヨタ式の見える化です。
2、ヒヤリハットの見える化
労働災害の世界に「ハインリッヒの法則」というのがあります。大きな事故の背後には中くらいの事故がいくつもあり、その背後には事故にはならなかったもののヒヤリとしたりハッとした出来事がたくさんあるという法則です。つまり、大きな事故を防ぐためにはヒヤリハッとの情報を集め、2度と同じようなことが起きないための改善を行うことが必要になります。
ある鉄道会社は過去に大きな事故を起こした経験があり、2度と同じ事故を起こさないように社員からヒヤリハッと情報を報告してもらうシステムをつくりましたが、最初のうちは集まったものの、しばらくするとほとんど報告がなくなりました。
理由はせっかく報告をしても、それに対するフィードバックがないからでした。「イノベーションに必要なのはフィードバックだ」と言われるように、アイデアや報告は活かされてこそ価値を持ちます。そこで、同社は社員から集まったヒヤリハッと情報を社員の見える場所に貼り出し、「どのような対策をするか」も書き込むことにしました。これがヒヤリハッの「見える化ロード」です。以来、情報は集まるようになり、改善も進むようになりましたが、このケースで分かるように「見える化」はみんなの知恵を集めたり、情報やアイデアを集めるツールでもあるのです。
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