皆さん、こんにちは。今回も私の著書「改善の急所101項」から1項を紹介し、実例を挙げて解説します。
【急所31】本当に自分の眼で見たことと、そうでないことを区別せよ。(80頁)
「百聞は一見にしかず」といいますよね。英語では“To see is to believe (見ることは信ずること)”となるそうですが、どちらもまさにその通りだと思います。「それがどんなものかを何回聞いても分からなかったが、現物を見たらひと目で分かった」といったことはほとんどの方が経験されているのではないでしょうか。
しかしその反対に、「実際には見たことがないにもかかわらず、そうだと思い込んでいる」ということもけっこう多いのです。そして、もしその思い込みが運悪く正しくなかった場合、その事実に気が付かないままに大きなムダの存在を見逃していたとしたら、それは大変にもったいないですね。
私がそのことに気付かされたのは、コマツの坂根正弘会長(当時、現在は相談役特別顧問)が名誉団長として参加された3年前の経団連洋上研修の船上でした。坂根会長は講演において、200人を超える団員を前にして、「君たちの中に、組み立てに使われたボルトが製品稼働中に自然に緩む瞬間を見たことがある人がいるかい?」と質問されました。
随分以前のことだそうですが、コマツで製品のボルトが緩むという品質問題が発生した時に、担当する技術者が手元の数字ばかりを使って議論をしているのを見て、おっしゃった言葉だそうです。実際に見たわけでもないのに、あたかも実際に見ていたかのように話が進んでしまっているが、そんなことでは真の原因がつかめない。もっと現場を見よ!という意味だと思います。
私は講師として参加しておりましたが、なるほどその通りだ!と思いました。それ以降、現場でモノを見るときは、本当に自分の目で見ているかどうかを確認しながら、見るようにしています。
ところで、先月栃木県のN社の工場で改善をしていた時、金属の熱処理炉の前でK工場長が炉内温度表示計を見ながら、「今、炉の温度は800℃とあるけれど、一体この炉の中のどのへんが800℃なんだろう?」と質問されたのですが、そこにいた誰も答えられませんでした。
炉の中にはたくさんの材料が入っていて、置かれた位置によっては温度分布もかなりの幅があるだろうと考えた上での質問でした。そして、「もっと低い温度で、もっと短い時間で、この処理はできないのか。この基準は誰が決めたのか?」続けました。
この質問は、私を含めた全員にカウンターパンチでした。誰もそこに疑問を持っていなかったからです。昔からそうやっているし、その結果、良い製品ができているのだから何の問題もない…と思い込んでいました。
でも、よく考えると、私達が見ていたのは表示計の数字だけであり、本当に一つひとつの製品の温度を測ったわけではありません。要するに、見た気になっていたけれど見ていなかったのです。
しかも、N社においては地域での電力節減への協力は絶対に必要だし、近日中に増産予定があるので、能力を上げる必要もありました。すなわち、それらがまだ達成できていないという大問題に対しても、眼が向いていなかったということでした。
そこで、炉内の数カ所を温度計で計測し、同時に炉内に入れる材料を同系統のものに揃えるやり方など取ったところ、より低い温度でより短い時間でもこれまでと同様の結果が出せるということが分かり、早速変更しました。その結果、設備能力は上がり、コストは下がりました。
見ていないにもかかわらず、見た気になるというのはこういうことです。どの工場にもあるのではないでしょうか? 改めて、このような眼で工場内を見てみましょう。大きな改善ネタが見つかる可能性大だと思います。
copyright ゆきち先生 http://yukichisensei.com/
※柿内先生に質問のある方は、なんでも結構ですので下記にお寄せください。etsuko@jmca.net