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第216話 「金利ある世界」という言葉にだまされるな

強い会社を築く ビジネス・クリニック

 2024年3月、マイナス金利が解除されました。マイナス金利導入の2016年から、8年を経過しての解除です。報道ではやたらと「金利ある世界」になった、と言います。金利がすぐにもどんどん上がるかのように報道されています。しかし、本当にそうなのでしょうか。

 

1)マイナス金利とはどういうことだったのか

そもそも、“マイナス金利”とはどういうことだったのか、よく理解できていない人が多いです。新聞記事を読んでいても、“この記事を書いている記者は、マイナス金利をわかっていないのではないだろうか…。”と思ってしまうことがあったくらいです。

 日本銀行は、市中銀行がお金を預ける銀行です。マイナス金利の導入以前、市中銀行が日本銀行にお金を預けると、0.1%の金利がついていました。そのため市中銀行は、融資先がないなかでお金を手元に寝かせるくらいなら、日本銀行に預けて0.1%の金利をもらったほうがよい、と考え、日本銀行に預けるお金がどんどん増えました。

 しかし、これではお金が民間企業に回りません。アベノミクスによる金融緩和でお金を市中に投入しても、その金が日本銀行に行くだけでは、意味がないのです。そこで、2016年2月以降、日本銀行に預けたお金には、マイナス0.1%の金利となり、市中銀行が金利を払う形になりました。これが、マイナス金利です。市中銀行に対して、「日本銀行に預けて金利を払いたくなかったら、民間企業に融資をして、少しでも金利をもらいなさい」という政府のメッセージだったのです。

 

2)今のタイボ金利は2011年と同じレベル

 「金利はタイボ(TIBOR)+スプレッド(上乗せ)にしなさい!」
と言い続けております。タイボ(TIBOR)は、Tokyo InterBank Offered Rateの略です。東京の銀行と銀行の間で日々取引される、短期コール市場という取引相場の金利です。毎日、変動するので、タイボ+スプレッドは、変動金利です。スプレッド(上乗せ)は、タイボ金利に加算する金利のことです。

 長らく低迷していたタイボ金利も、日銀がマイナス金利を解除して以来、じわじわ上がっています。しかし、それをもって、「金利がどんどん上がってきた!」というのは、言い過ぎです。

 タイボ金利の推移のグラフをご覧ください。マイナス金利の時は、タイボ金利が0.05~0.07程度でした。それが直近で、0.22182%です。(7月26日現在)しかし、この金利もこの15年程度の推移でみると、まだまだかなり低いことがわかります。今のタイボ金利は、東日本大震災のあった、2011年と同じレベルなのです。

 

 

 さらにその前の2008年、リーマンショックの年で、0.6833%でした。その頃、すでにデフレモードで低金利になった、と言われていた時代です。

 その時に比べると、金利が上がってきた、とはいうものの、金利ある世界に入ってきた、とまでは言い難いと思うのです。ましてや、定期預金の金利が0.001%から0.02%に金利が変わって「金利が20倍になった!」と騒がしい報道をするのは、情報による印象操作も甚だしいのです。0.02%でも、まだまだ低金利です。

 先のグラフを見ると、リーマンショックのあと、3年ほど経過して金利が大きく下がっています。上がる時も同じだと思うのです。今の日本銀行は、3年ぐらいかけて、金利を上げようとしているのではないか、と考えるのです。

 なので、タイボ金利が上がってきた!とはいうものの、すぐに固定に切り替えたりする必要はないのです。

 

3)金利を上げようとする銀行が増えています

 あるサービス業の会社でのことです。3つの銀行で当座貸越枠はあるものの、いずれも使ったことがありませんでした。その会社の社長の言葉です。

 「1行だけ、当座貸越の金利を上げさせてください、と言ってきました。その理由が、“最近、金利がじわじわ上がってきていますから”という、いいかげんなことだったので、“そうですか、金利が上がるなら解約します”と言うと、“待ってください!もう一度、本部に掛け合ってみます!”と言われました。でも、甘く見られているような気がしたので、腹がたって解約しました。」
とのことだったのです。

 顧問先から聞く、最近の銀行の動向を伺うと、銀行はいま、金利の値上げ交渉をして上がればラッキー、くらいの感じで取り組んでいるように思えます。

 金利が上がってきた、というものの、超低金利だったのが、ほんの少し上がっただけです。銀行の言葉を鵜呑みにすることなく、
 ● この30年で見れば、今の金利はどうなのか
 ● うちの財務体質でどうして金利が上がるのか
 ● 上げるなら、よその銀行でお世話になります
といってほしいのです。

 新規の長期借入をしようとすると銀行の担当から、「金利が上がるので固定がよいですよ。」と言われるケースが増えてきました。

 しかし、そんな言葉を信用することはありません。まだ数年は、極端な金利上昇はないです。日銀総裁の発言とこれまでの実践からすれば、そんなことにならないよう、じわじわ上げようとしています。

 銀行員にすれば現状、固定金利で融資獲得したほうが個人成績は上がります。銀行員は常に、自分が得するほうを勧めてきます。そう思って対応をすべきなのです。“うちの銀行担当はわが社のことを親身になって考えてくれている。”等と思ってはいけないのです。彼らにはそれぞれに、ノルマがあるのです。

 長期融資を受けるとして、今もまだ、タイボ+スプレッドの変動金利で借りるべきです。景気に準じて変動するのが、タイボ金利です。タイボが上がってきたといっても、まだまだ低金利なのです。だから円安なのです。

 日本の金利が急激に欧米並みに上昇することはありえません。今はまだ、上がり傾向に入っただけです。実際にタイボの数値が公表されているのですから、経営者はそれを見て判断すべきです。銀行員の言葉だけを、鵜呑みにしてはいけないのです。

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