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健康

最終回 「成功の秘訣は氣にあり」

社長の「氣」

 これまで何度も触れて参りました通り、「氣」は交流することでその力を得ます。氣は溜めて消費するものではありません。氣を出すことによって新たな氣が入って来て、そこに交流が生まれるのです。
 我々は天地自然の一部の存在です。しかし、現代社会において目の前のことに忙殺されると、その当たり前の事実を忘れてしまいます。すると、天地自然との繋がりがなくなってしまい、「氣」が滞るのです。
 氣が滞ると、今まで氣づけたことが氣づけなくなり、会社や家庭において周囲との人間関係も滞り、結果として物事が上手く運ばなくなります。そういうときは、頭でいくら考えても解決はしません。
 「氣」は常に交流しているのが本来の姿であり、どうしたらその状態に戻るかが重要なのです。
 日本経営合理化協会が主催する「藤平信一・氣の道場」では多くの経営者とご縁を頂き、様々な相談を受けて参りました。
 ある社長さんは数年前から「漠然とした不安」を抱くようになり、よく眠れない生活が続いていました。会社の業績は順調、家族も円満、ご自身の体調にも全く問題はありませんでした。不安の原因はご自身でも全く分からず、まさに「漠然とした」ものでした。
 すると今度は「不安を拭えない不安」が生じて悪循環に陥りかけているときに、「氣の道場」に参加されました。「氣を強く持てるようになりたい」という動機でした。
 原因なく不安に陥る状態は氣が滞ることで生じています。我々が天地自然の一部の存在であることを忘れ、天地自然の繋がりを失い「自分一人の存在」となってしまうと、得体の知れない不安が生じるのです。
 反対に、天地自然との繋がりを得ているときは天地自然によって守られているという実感があります。
  この方には、まず「氣の呼吸法」を指導しました。特に不安が強く現れる夜に行うようにアドバイスしました。藁にもすがる氣持ちで、毎日実行されたそうです。
 氣の呼吸法を行い、心が静まっていく過程では様々なことが心に浮かぶものです。それをコントロールせず、浮かぶに任せて放っておきます。
 氣の呼吸法を行ううちに、仕事のこと、家族のこと、子供の頃のこと、これまで歩んで来た道のり、実に様々なことが心に浮かんで来たそうです。そのうちに、あるときふっと心が晴れて、それ以降、漠然とした不安が全くなくなったとのことでした。
 あまりに不思議な体験に、別の講義の際にわざわざ報告に来られました。しかし、これは決して不思議なことではなく、氣の呼吸法を通じて心が静まったことで、天地自然との繋がりを「実感」として取り戻せたのです。そうお伝えすると、「初めて氣が交流するという意味を理解しました」と言われました。
 このやり取りを聞いていた他の社長さんが、「実は自分も不安に悩んでいます」と次々と胸中を吐露したのがとても印象的でした。こういったことはなかなか人に相談出来ず、実際には数多くの人が漠然とした不安を抱えています。
 「不安」と「恐れ」は異なるものです。
 「恐れ」は人間が本能的に得るものであり、生存において不可欠です。恐れに対する感覚が鈍くなると、危険を察知出来なくなり、身を守ることが出来なくなります。正しく恐れることは大事なことで、それは「畏怖」という心の働きにも直結しています。
 「不安」は人間が心のなかで作り出すものであり、実体がありません。したがって、不安によって心が支配されてしまうと、考え方や行動を変えるだけでは解決しません。仮に一つの不安が取り除かれても、同時に次の不安が生じます。
 そういった不安に打ち克つのが「氣力」であり、氣の交流なのです。「氣」は事業を成功に導く上での土台です。
 そして、経営者やリーダーは、日常において「氣を出す」訓練が不可欠です。世の中には数多くの価値ある学びがありますが、心身統一合氣道は「氣を出す」ことを体得する武道なのです。
 連載の最後に、先代の藤平光一が誦句集にまとめた「座右の銘」を紹介いたします。
 
 【座右の銘】
 万有を愛護し、万物を育成する天地の心を以て我が心としよう。
 心身を統一し、天地と一体となる事が我が修行の眼目である。
 
 心身統一の四大原則
 一、 臍下の一点に心をしずめ統一する。
 二、 全身の力を完全に抜く。
 三、 身体の総ての部分の重みを、その最下部におく。
 四、 氣を出す。
 
 「氣」の学びは実感が重要であり、通常は体験形式でお伝えしています。文章でお伝え出来ることには限界があったと存じますが、それでもこの連載が、皆様の「氣」の理解の一助になりましたら幸せです。
 最後までお読み頂きましたことに心より感謝申し上げます。
 

 

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  1. 第29回 「氣力を養う」

  2. 第4回 臍下の一点(せいかのいってん)

  3. 第7回 「氣の呼吸法」

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