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第143回 食品小売業のDX加速で躍進の時を迎えたシノプス

深読み企業分析

シノプスは1987年創業の流通業界向けのパッケージソフトの会社である。1996年に販売を開始した物流最適化システムを皮切りに、1997年には卸売業向け在庫最適化システム、1998年には物流センター内ロケーション最適化システム、2004年の通販業向け自動発注システムなどの開発を通じて順調な成長を遂げてきた。

特に近年は自動発注システムに注力し、2006年に小売業向け自動発注システム、2009年には日配食品に対応した自動発注システム、2017年には需要予測型自動発注システム、2018年にはコンビニ向け発注数自動追加システム、2019年にワンストップ自動発注サービス、2020年5月緊急時自動発注サービスなどを開始している。

業績自体も順調に成長にしていた同社であったが、コロナ禍によって大打撃を受ける。もちろん、これは同社だけの問題ではないが、顧客の混乱には相当なものがあり、営業自体が停滞する状況となった。そこで、同社が決断したのが、それまでのパッケージソフト販売から、クラウドによるSaas型のビジネスモデルへの大転換であった。

同社では早くも2020年6月にはクラウドサービスをスタートさせている。コロナに対して世の中が認知し始めてわずか半年も経たない時期であった。当然ながら既存ビジネスがコロナで停滞気味の中、新規ビジネスを立ち上げるわけであるから、業績は大きな落ち込みとなった。2020年12月期の売上高は16%ほど落ち込み、営業利益に至っては10分の1以下へと落ち込んだ。

しかし、翌2021年12月期には大幅な業績回復を果たし、2022年12月期、2023年12月期と順調に回復が継続した。ただし、2024年12月期には一旦大幅な減益となった。これはたまたま2023年12月期に納入時期の関係でその前の期よりパッケージソフトの売上が大幅に増えたこともあり、2024年12月期には最初からパッケージソフトは大きく減少する予定であった。ただし、その分を大口顧客のクラウドの新規契約で十分カバーできる見込みであったが、その大口の契約がもう少しテストの状況を見てから契約したいということで、スタートが翌期にずれてしまったことによる。しかし、これはあくまで一時的な停滞であり、2025年12月期には一気に過去最高益となる見込みである。

同社のビジネスのコアとなる競争力の高いサービスはクラウド型需要予測・自動発注サービスである。現時点において小売業は様々な商品で自動発注システムの導入を行っている。最近はAIによる自動発注システムはむしろ常識ではあるもの、その仕組み自体は在庫が減った商品を補充するものが主流で、同社のように需要予測に基づいた自動発注を行っている企業は少ないと言える。

これは一般的にAI手法として用いられるディープラーニングという手法が需要予測には不向きな点があることによる。ディープラーニング法の AIで は、例えば囲碁の盤面は19×19、将棋は 9×9 、チェスは 8×8 というような固定の盤面の上にあり、かつ、コマのそれぞれの動き方のルールが決まっているものであれば、その何億通り分を、過去の実績、勝敗の実績を紐解いていけば、おそらくこうしたらこうだという答えが出る。

しかし、同社が取り組む食品分野では、道路を挟んだ向かいにライバル店ができるかもしれないし、競合店がリニューアルオープンするかもしれないし、特売セールをいきなり打たれるかもしれない。また、商品そのものも、毎年、毎年、1,000 を超えるような新商品が世の中に出てくる。あるいは値段も 228 円の牛乳がいきなり 50 円引きされてしまうこともあり、値段がころころ変わるので、価格弾性値も過去のとおりに動くわけではない。

このような商品をAIで扱う場合に同社が最適と考える手法は、エキスパート法という AI となる。エキスパート、つまり専門家が過去の経験から仮説と検証を交えて、不確定な変数も含む連立方程式をいくつも一つずつ紐解いていくという方式である。当然、簡単に解けるわけではなく同社でも20数年かけたトライアンドエラーを経て、ようやく確立した手法である。

この方式による食品の自動発注に関しては、中堅スーパーとの実証実験から極めて高い効果、つまりは当該カテゴリの収益性向上という結果が表れたことで、食品スーパー内において急速に普及し始めている。

現時点ではさらに、自動発注に加え、最適なタイミング・最適な割引率を自動計算するオプション機能も付けている。まさに「AI値引き」と呼べる仕組みである。さらには食品スーパーにとどまらず、この需要予測型の自動発注システムを様々な小売業やメーカーなどにも展開して行く見込みである。このようにして、コロナ前の2019年12月期には45%ほどに過ぎなかったストックビジネスの比率は、2024年12月期には73%に達しており、コロナ禍を経てわずか5年で極めて安定的なビジネスモデルへと変貌を遂げてきたのである。

2024年12月期には大幅な減益となった同社であるが、2025年12月期には大幅増益と

なり、一気に過去最高益を更新する見込みである。実際問題、すでに終わった上期決算は、20.6%増収、営業利益は7.7倍と急回復を示した。これを2倍すれば、通期計画の営業利益である355百万円、2.3倍を上回るが、元来は下期柄の会社であり、余裕で会社計画は達成するものと考えられる。

有賀の眼

昨今の人手不足、最低賃金の引き上げなどもあり、様々な業種でDX化が急がれている。特にパート依存度が高い食品スーパーでは目に見える形でもDX化が急速に進行している。セルフレジの導入もつい数年前に始まったばかりと思っていたが、最初はセルフが一部であったものが、今では人手対応のレジが一部残った状態で、急速に導入が進んだ。あるいは、顧客が端末を持って買い物をして、レジフリーのシステムも浸透し始めている。

そんな中で、かつては仕入れ担当正社員の重要職務であった発注業務も、いつの間にかパートに置き換えられ、今やその業務がAIに置き換えられているのである。しかも、AI導入が直接的に顧客の収益に結びつくことから、各社競って導入を急いでいる。

そんな時代背景もあって、その自動発注システムでトップシェアの同社の躍進は当面止まらないものと思われる。

 

 

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