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人間学・古典

第77講 「帝王学その27」
屏風の上において、その姓名を録し、坐臥恒に看る。もし善事有らば、つぶさに名下に列ぬ。

先人の名句名言の教え 東洋思想に学ぶ経営学


【意味】
寝室の屏風の上に官の姓名を記入し、起床就寝の都度に看る。もし良い報告があれば、名前の下に書き込む。



【解説】
これも「貞観政要」の言葉で、帝太宗の起床就寝時の生活工夫を述べたものです。このような習慣を人間学では「隠れた部分での日常工夫」といって高く評価します。
かつて天竜寺開祖の夢窓疎石禅師が、時の覇者足利尊氏の就寝前の坐禅を誉めたのも、彼への追従ではなく隠れた部分での日常工夫を称えたものです。

人間は地位を得ると、その地位に相応しいバランスの良い総合力を身に付けたいと考えます。しかしどうしても弱い部分が生じますが、この改善に「隠れた部分での日常工夫」を活用するのが効果的です。
例えば、部下5人の課長が15人の部長に昇格した場合、一桁上の社員統率力を鍛えたいと思えば、毎日の坐禅修行で人物器量を鍛えます。

修行とは日々繰り返すことですが、現代人の多くは「自分は意志薄弱だから、とてもとても修行などは・・」と尻込みします。しかし毎日の生活リズムに取り入れれば、朝の食事や新聞と同じことで、気が付いてみたら既に終わっていたということになります。
現在の私の日常工夫は、「早朝坐禅2千日」「般若心経読誦2万回」「階段修行20万段」「ゴミ拾い修行2万回」などです。しばしばコツを尋ねられますが、①目標回数を含んだ自分流の修行名を付けること、②毎日の生活リズムに取り入れること、③途中中断しても自己卑下しないで再挑戦すること・・などとなります。

次に太宗ほどの名君が、どうして掲句のような綿密な「臣下の能力評価」を心掛けていたかという点に注目しなければなりません。
現代は弱肉強食の損得経済戦争の社会といわれ、儲けの多寡が会社の優劣を決め、赤字が続けば会社は滅亡します。確かに厳しい社会ですが、競争に負け倒産したからといって、社長や社員の命が奪われることはありません。
これに対して群雄割拠の戦国時代では、「兵は、戦場の大将の旗の下に命を賭けて集まり、束の間の戦勝に喜び、次なる戦いに慄く」といわれますが、負ければ国土喪失はもとより一族郎党の皆殺しの危険が迫ります。
大将の家来評価は命にかかわる問題ですから、現代社長よりもはるかに真剣になるのは当然です。兵法書『三略』にも「知(者)を使い、勇(者)を使い、愚(者)も使う」とありますが、当時は、愚民も参加させる国家総動員の戦いでした。建国8年目で二代帝位に就いた太宗が、臣下の評価表を寝室まで持ち込んで真剣に取り組んだのも、大将として乱時に備えた戦陣の駒配列であったかもしれません。

ある社長が「うちではトイレ掃除のおばさんも喜んで働いてくれているよ」とぽろっと漏らしましたが、委託清掃員の人事掌握までできているのには敬服しました。

 

杉山巌海

第76講 「帝王学その26」 太宗、一駿馬あり、にわかに死す。馬を養う宮人を怒り、これを殺さんとする。前のページ

第78講 「帝王学その28」 公、外に奢り、内に倹にして、声色の娯しみ無し。次のページ

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