賃金管理研究所 所長 弥富拓海
本来、残業や休日勤務等の所定内を超える時間外勤務は必要不可欠な場合に限られるべきものであり、残業は上司からの指示に基づき、日時と予定時間数、残業仕事の内容とその必要性について「事前届出」することがあるべき姿です。
しかし、現実には何時間残業をするかは,社員の判断に委ねている企業が多いのではないでしょうか。残業の決定を社員本人に委ねるのは「社員信頼」の証であり、意義ありとの主張もあります。しかしこれが長時間残業の温床となっている場合も少なくないのです。
好不況の波を乗り越えて管理職になった筋金入りの上司には「仕事は残業してでも、その日のうちに完結すべきものだが、むやみに残業代を請求するのは良くない」との意識がどこかに残っているかも知れません。このような意識の上司がいる職場では、サービス残業が労働基準法違反と分かっていても、上司の不機嫌やハラスメントが怖くて残業を拒めない。そんなケースがあるのではないでしょうか。
平成29年1月に「労働時間の適正な把握のために使用者が講ずべき措置に関するガイドライン」が厚生労働省より公開されました。これは、電通事件など、過労死事件がおこったことをきっかけに、労働時間を適正に把握し、長時間労働による過労死がおこらないよう、厚生労働省が適切な労務管理の方法をあえて指示する内容となっています。
このガイドラインでは、特に実際の労働時間と、労働者の申告した時間とに乖離がある場合には使用者(会社)が実態調査をしなければいけないことが明確化されました。なお、労働時間を把握するための、始業、終業時刻の記録の仕方については
ア.使用者が、自ら現認することにより確認し、適正に記録
イ.タイムカード、ICカード、パソコンの使用時間の記録等の客観的な記録
上記2つを原則としています。更に始業から終業までの労働時間の考え方についてもガイドラインで言及しています。
(1)使用者の指示により、就業を命じられた業務に必要な準備行為(着用を義務付けられた所定の服装への着替え等)や業務終了後の業務に関連した後始末(清掃等)を事業場内において行った時間
(2)使用者の指示があった場合には即時に業務に従事することを求められ、労働から離れることが保障されない状態で待機している時間(いわゆる「手待時間」)
(3)参加することが業務上義務づけられている研修・教育訓練の受講や、使用者の指示により業務に必要な学習等を行っていた時間
上記の3つの労働時間については、個々の状況で判断すべきものであり、前提条件次第で「労働時間ではない」と考えた方が正しいケースもあります。そうした異論があることも理解した上で、厚生労働省はあえて列挙しています。
なお労働基準法第109条では「使用者は、労働者名簿、賃金台帳及び雇入、解雇、災害補償、その他労働関係に関する重要書類は三年間保存しなければならない」と定めています。ご注意ください。