今年6~8月、筆者は中国経済の実態を把握するために北京、上海、天津、重慶、遼寧省、河北省などに足を運び、現地調査を実施した。調査を通じ日本企業の対中ビジネス戦略の方向性にかかわる中国経済の3つの大変化を実感した。
1つ目は、成長センターのシフトである。これまで沿海部は中国の成長センターとして認識されてきた。そのため、日本企業の対中投資も中国の沿海部に集中してきた。だが、いまこの認識が覆され、成長センターが沿海部から内陸部へシフトしているからだ。
図1は2005~15年全国主要都市域内GDP増加率ランキングを示しているが、上位10都市のうち、長沙、重慶、武漢など8都市が内陸部にあり、沿海部は僅か天津と南京2都市しか入選できなかった。逆にGDP増加率ワースト10には上海をはじめ沿海部8都市がランクされる(図2を参照)。
2016年1~6月地域別GDP成長率ランキングも同様の傾向を示している。ベスト10には重慶市(10.6%)をはじめ、チベット(10.6%)、貴州省(10.5%)、江西省(9.1%)、安徽省(8.6%)、青海省(8.3%)、湖北省(8.2)など内陸部が7席を占める。一方、沿海部は天津(9.2%)、福建省(8.3%)、江蘇省(8.2%)など3席しか占めていない。
成長センターのシフトは、日本を含む外国企業の対中ビジネス戦略にも影響を及ぼしている。
2つ目の大変化は産業構造の地殻変動である。2000年から2015年までの15年間で、中国の産業構造は大きく変動し、第2次産業つまり製造業のシェアが縮小し、第3次産業つまりサービス産業のシェアが急速に拡大している。図3と図4の通り、GDPに占める製造業シェアは45%から40.5%へと4.5ポイント減少し、逆にサービス業シェアは40%から50.5%へと10ポイント以上増加した。
製造業には鉄鋼、セメント、石炭、電解アルミ、平板ガラスなど設備過剰の分野が多く、生産能力の過剰を消却する圧力が強まっている。従って、製造業シェア縮小、サービス業シェア拡大の傾向が今後も続くと思う。これまで日本企業の対中投資は製造業に集中してきたが、戦略の見直しは避けられない。
3つ目は、これまで中国が「世界の工場」と呼ばれ、日本企業も輸出を目的とした対中投資が多かった。しかし、いま中国では人手不足、人件費上昇などによって、「世界の工場」時代が終わった。
反面、中国は「世界の市場」と呼ばれる時代が始まった。その象徴的な存在は国内では好調な自動車販売であり、海外では中国人観光客による「爆買」である。2015年、中国の新車販売台数は2,459万台に達した。日本の5倍弱に相当し米国よりも712万台も多く、世界最大規模を誇る。そのうちの大半は、実は日米欧の企業が作った車である。同年、中国の出国者人数も1億2,786万人にのぼり、入国者人数の2.2倍に相当する。億単位の中国人は日本をはじめ世界各地で「爆買」しており、各国経済に与えるインパクトが甚大である。
「爆買」の背景には中間層の急拡大がある。中国に進出する外国企業の間では、1人当たりGDPが1万ドルを超えると、海外旅行や日本など先進国の製品・サービスに対する需要は飛躍的に高まると言われる。2009年時点で、中国では1人当たりGDPが1万ドルを突破した省・直轄市・自治区(日本の都道府県に相当)が1つもなかった。ところが、2015年になると、上海、北京、天津、江蘇、浙江、内蒙古、遼寧、福建、広東、山東など10の地域が1万ドルを超えている。これらの地域に住む人口の合計は5億人を上回り、全国人口の37%を占める。急速に拡大する中国の中間層をどう取り込むかは、いま日本企業の喫緊の課題となる。
以上述べたように、中国経済に大きな地殻変動が起きている。日本企業はこの大変化にどう対応するか?対中ビジネス戦略の再構築が求められる。