- ホーム
- 眼と耳で楽しむ読書術
- 第101回「大林宣彦の体験的仕事論」(語り:大林宣彦 構成:中川右介)
先月末の緊急事態宣言の解除に続いて、
このほど、都道府県をまたぐ移動の自粛も解除。
ようやく日本経済も、復活に向けての動きが本格化してきますね。
今回のコロナ禍では、フランス古典文学の傑作
『ペスト』(著:カミュ)が爆発的に読まれ、
ベストセラーとなりました。
この本は、東日本大震災時にも売れたことから、
未曾有の有事対応へのヒント、また何らかの励みとしても
興味を持たれたものと思われます。
そこで、『ペスト』に代わって、
今のこのタイミングで、ぜひ読んでいただきたいと思う一冊が、
『大林宣彦の体験的仕事論』(語り:大林宣彦 構成:中川右介)
大林宣彦の体験的仕事論 (PHP新書)/amazonへ
今年4月に逝去された日本映画界の巨匠、大林宣彦監督。
数々の著作も残されていますが、多くは映画関連のもので、
本書は、珍しい、貴重な仕事論です。
今なぜ本書か、というと、1つは、ビジネス書として優れた一冊であること。
もう1つは、大林監督の創作の背景になっている、
第二次世界大戦後の"敗戦少年"として生きてきた精神性を知ることです。
戦後、価値観の一大転換の中で生きた監督の経験や考えが、
"アフターコロナ"あるいは"ウィズ・コロナ"という、
変化の時代を生きる我々のヒントになるもの、と確信します。
最初から最後まで興味深い内容ばかりですが、
中でも、巨匠・大林監督のリーダー論が書かれた第四章は必見!
いかに一緒に働く人の力を引き出すか?
チーム力を最大化させるか?
個人的に特に印象に残ったのは、
以下の5つの項目です。
・リーダーは凧である
・チームはバランスが良すぎてもうまくいかない
・新たなことは「いつものスタッフ」と、原点確認は「新しいスタッフ」と
・苦手なことをやってもらうと、思わぬものができる
・リーダーが部下に賭けるときの覚悟、―黒澤明監督のある決断
他にはない、大林流のユニークなリーダー論に、
思わず惹きつけられてしまいます。
さらに、第五章の「いかに時代の変化に対応していくか」も、おすすめです。
常に第一線でいるために、どう生きて前に進むか?
大林監督のやさしい語り口が聞こえてきそうな、親しみやすい本ですが、
内容が実に濃く、学ぶところが盛りだくさんです。
この厳しい時代を生き抜き、さらには未来をつくっていく上で、
経営者やリーダーに、ぜひ読んでいただきたい一冊です!
尚、本書を読む際に、おすすめの音楽は
『別れの曲 ショパン名曲集』(演奏:ヴラディーミル・アシュケナージ)
別れの曲~ショパン名曲集/amazonへ
です。
大林監督は、いつかショパンのピアノ曲のような映画を作りたいと思い、
名作『さびしんぼう』を誕生させたという逸話があります。
同作でも流れた『別れの曲』を中心としたショパンの名曲集を
巨匠アシュケナージによる名演とともに
合わせてお楽しみいただければ幸いです。
では、また次回。