menu

経営者のための最新情報

実務家・専門家
”声””文字”のコラムを毎週更新!

文字の大きさ

新技術・商品

第12話 進化系アンテナショップ

北村森の「今月のヒット商品」

東京都内の繁華街を歩いていると、地方の自治体が運営するアンテナショップをよく見かけますよね。銀座、日本橋といった一等地で、県の名前を前面に出して、地域産品を販売している店舗。
 
地域創生という言葉が定着するなかで、各自治体は産品のアピールに必死なのだと思います。漏れ聞こえてくるところでは、毎年の運営で数千万円?1億円近い赤字を続けているところもあるようなのですが……。それでも、施策を何ら打たないで、その県の存在感が埋没してしまうことだけはさけたい、ということなのかもしれません。なので、私には、こうしたアンテナショップを全否定はできません。
 
ただし、いかにお金を生かすか、については、考えないといけないポイントですよね。何と言っても、税金を使っているわけですから。
 
で、今回取り上げたいのは、ここなんです。皆さんは、こんなアンテナショップ、あり、と思いますか?
 
mori12_1.jpg
 
これがエントランスです。都道府県名は見当たりません。施設の名は「TurnTable(ターンテーブル)。うっかり過ごすと、ここが自治体によるアンテナショップとは気付かないままで過ごすかもしれません。
 
さらに言うと、この一軒、JR渋谷駅から歩いて10分以上はかかります。裏渋谷と呼ばれる神泉町の細い路地に面した、5階建てのビルをまるまる改装しているのですが、エントランスもそう派手ではないし、ここを目指して来ないとたどり着かないような場所です。銀座や日本橋にあるアンテナショップのように、何かのついでにふらりと立ち寄れるという性格の施設では、決してない。
 
中はどうなっているのか。
 
mori12_2.jpg
 
1階はバルです。昼はカフェとしてランチも提供しています。ビールを注文すると、上勝町のビール醸造所が作る限定版が運ばれてきます。
 
mori12_3.jpg
 
バルの一角は、小さなマルシェ(市場)で、産地から届くスダチなども購入できます。では、2階はどうなっているかというと…。
 
mori12_4.jpg
 
こんな感じです。天然木の大きなテーブルをしつらえたレストラン。スタッフに聞くと、この天然木は、わざわざ地元から東京まで持ってきたそうです。
 
mori12_5.jpg
 
こんな感じです。天然木の大きなテーブルをしつらえたレストラン。スタッフに聞くと、この天然木は、わざわざ地元から東京まで持ってきたそうです。
 
 mori12_6.jpg  mori12_7.jpg
 
レストランのコースは5000円と8000円の2種類。初回のコースから例をあげると、まず鯛のカルパッチョ。味噌やスダチが隠し味といいます。メインの一皿は鮮やかな緑のピュレをあしらった阿波牛。
 
さらに面白いのは、ここからです。
 
mori12_8.jpg mori12_9.jpg
 
 
この施設、上の階は、客室になっていて、宿泊することができます。つまり、おオーベルジュということ(オーベルジュとは「宿泊もできるレストラン」)。都心にあるオーベルジュ、という発想が興味深いところです。二段ベットをいくつも備えたグループドミトリーもあって、インバウンド客がよく利用しているそう。
 
客室は全部で15。シングルルームは1万円強、ドミトリーなら6000円台から利用できます。
 
さあ、こんな不思議なアンテナショップ、どこの自治体によるものなのか。
 
ヒントをちりばめたので、もうお気付きの方もいらっしゃるでしょうね。徳島県です。先に挙げた食材やビール、あるいは天然木は、すべて徳島産。
 
つまり、「徳島」という県名は決して前面に出していないけれど、ここで過ごすうちに、じわりじわりと徳島を体感することができる、そんな一軒になっているということです。
 
私、この考えは、実にいいと感じました。クチコミで広げるには、これくらい思い切った策を打ったほうがいい。徳島のアピールに向け、遠回りに見えるようで、実は近道なのでは、とすら思います。
 
産品の購入にもまして、こうした“滞在経験”(宿泊までしなくとも、飲食を楽しむだけでも…)から得られるインパクトというのは、消費者にとって大きいだろうと想像できるからです。
 
この「TurnTable」は、徳島県と民間事業者による、官民連携のプロジェクトです。施設を整備する初期費用は県が持ったのですが、開業したあとは、民間側は赤字黒字にかかわらず2000万円を県に支払う一方、県は毎年3000万円の固定額を負担する仕組み。つまり、開業後に儲かるかどうかは、民間側の奮闘次第です。私は、この座組みも面白いと感じました。ある意味、責任体制が明快ですから。
 
予算の承認や、こうした座組みによる開業にあたっては、賛否両論あったはずです。でも、賛否両論あるくらいの企画でなければ、今やインパクトをもたらさないというのも事実。
 
2月に開業しましたが、開業3カ月目にして、宿泊稼働率は77%超です。こんな地味な場所にありながら結構な健闘、と言っていい。
 
mori12_10.jpg
 
最後に……。ここ、朝食も美味しかった。徳島県産の生卵は、ご飯に乗っけると甘みが膨らみます。徳島ならではのフィッシュカツ(すり身のフライ)も並んでいました。宿泊客だけでなくイートインの客にも対応していて、値段は1000円です。
 
 

第11話 攻め方を変えて大ヒット!任天堂の商品開発ウラ話前のページ

第13話 なぜ?「透明飲料」がウケる理由次のページ

関連セミナー・商品

  1. 2023年《大ヒット商品の作り方》

    音声・映像

    2023年《大ヒット商品の作り方》

  2. 2022年《超トレンド予測》

    音声・映像

    2022年《超トレンド予測》

  3. 2020年《超!トレンド予測》

    音声・映像

    2020年《超!トレンド予測》

関連記事

  1. 第78回 2024年のトレンド予想!

  2. 第59回 新しい商品領域をはぐくむ覚悟

  3. 第43話 それは偶然の「いい波」だったのか?

最新の経営コラム

  1. 朝礼・会議での「社長の3分間スピーチ」ネタ帳(2024年5月1日号) 

  2. 第59回「始まりと終わり」

  3. 「日本版」はどう進展するのか?

ランキング

  1. 1
  2. 2
  3. 3
  4. 4
  5. 5
  6. 6
  7. 7
  8. 8
  9. 9
  10. 10
  1. 1
  2. 2
  3. 3
  4. 4
  5. 5
  6. 6
  7. 7
  8. 8
  9. 9
  10. 10

新着情報メール

日本経営合理化協会では経営コラムや教材の最新情報をいち早くお届けするメールマガジンを発信しております。ご希望の方は下記よりご登録下さい。

emailメールマガジン登録する

新着情報

  1. 不動産

    第60回 「 屋外廊下形式 」と「 屋内廊下形式 」のメリット及びディメリット
  2. 人間学・古典

    第18講 「言志四録その18」権豪に近づきて、名を落とすべからず。
  3. 採用・法律

    第99回 『事業承継としての上場~その2』
  4. マネジメント

    危機を乗り越える知恵(17) 議論を尽くし収斂させる
  5. マネジメント

    第321回 数字で伝える習慣がリーダーを強くする
keyboard_arrow_up