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第6話 ヒットに「不思議」はない

北村森の「今月のヒット商品」

昨秋、秋田に出張した折、なんだこれ?という商品に出合いました。こんな小箱が、ふと目に飛び込んできたんです。
 
mori06_01.jpg
 
「がっキー」という文字に気持ちを持っていかれました。商品名は「いぶりがっキー」。秋田名産のいぶりがっこをどうにかしたものなのだろうな、と想像はつきます。先を急いでいたので、そのときは買わずに通り過ぎました。で、秋田の知人に尋ねてみたら、いま売れに売れている商品だというのです。
 
ならば、と、出張帰りの秋田空港で購入しようと思ったら、ないんです。なんだ、実際には、それほどの人気商品というわけではないんだ…。いや、違ったんです。秋田空港の売店によると、あまりの人気で、注文をかけても満足に入荷しない状況が、ずっと続いているらしい。これはすごい話ですね。空港の売店といえば、商品の作り手にしてみると真っ先に卸したくなる場所ですからね。波及効果も大きいですし。それでも出荷できないということは、これ、確かにヒットしているんだ、と気づかされました。
 
東京に戻った後、手を尽くして、どうにか入手できました。レトルトカレーの箱をさらに一回り小さくしたような薄型のパッケージを開くと…。
 
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ごく細いドライスティック状になったいぶりがっこが、5本×4つの小袋に入っていました。厚さ5ミリ、長さ15センチといったところ。
材料は大根、砂糖、食塩、米ぬか。以上です。無添加なんですね。かじると、ポリッポリの食感で、その後じわじわと、いぶりがっこの香りや味が広がっていく。これは、実に面白い食感ですよ。人に語りたくなる。わずか12グラムで税別450円もするんですが、お土産としてはちょうどいいかも。売れるはずです。
 
ヒット商品って、あるところにはある、という話ですね。1週間ほどして、私、秋田に舞い戻りました。これは取材をしないといけないと思ったんです。
 
作っているのは秋田県湯沢市の伊藤漬物本舗。社長に尋ねたら「秋田土産はとにかく重い。それを解消するお土産をどうしても作りたかった」と力説していました。なるほど。日本酒、稲庭うどん、お米、そして、いぶりがっこも重くてかさばります。そうした「重い、大きい」から秋田土産を脱却させたい、というのが、開発の出発点だったそう。
 
しかし、話は簡単ではなかった、とも。当初は周囲から「いぶりがっこをこんなふうにするなんて突拍子もないことを」という評が立ったそうです。そもそも、いぶりがっこを乾燥させること自体が、難しいとされていました。いぶりがっこが内包する旨みの成分が乾燥には向かないらしいのですね。温度と時間の試行錯誤が続きました。温度が高いと焦げる、時間が長くてもやっぱり焦げる。半年やり続けてたどりついたのは、高温を避け、長時間かけてゆっくり乾かすという手法でした。
 
「お客さんが手に取ったときに『何、これ?』というふうに、クスッと笑みがこぼれちゃうものを作りたかった」。この言葉にはうなずきましたね。地域産品で重要なのは、まさに「何、これ?」と思わず声を上げてしまうような「まだ見ぬもの」であることが大事、と思うからです。
 
ただし……2009年の発売直後は、販売数があまりに低調だったと聞きました。「最初は箸にも棒にも引っかからなかった」。起爆剤となることを期待して秋田県内のコンクールに出品してみたものの、結果は振るわず……。
 
それでも諦めなかったそうです。社長は「いぶりがっキー」によって、従来、漬物を土産として購入していた主たる消費者とは異なる層を狙っていました。漬物をよく買ってくれていたのは年配の人。それを「いぶりがっキー」では若い世代をターゲットに絞り込んだ。新しいものを好み、しかも食に聡い消費者であれば、必ず反応してくれるだろう、との読みがあったといいます。
 
そして、その読みは当たりました。広告宣伝は一切しなかった(できなかった)のに、クチコミで徐々に人気に火がつき、2016年に現在のような薄型のパッケージ(ビジネスバッグにたやすく入ります)にしたところ、2017年になって突如、爆発的ヒットに……。いまでは、先に触れたように、舞い込む注文数が生産量を大きく上回る状態が、ずっと続いているとのことです。
 
お土産の泣きどころ(重くて大きい)を解消することを目指し、気持ちを揺さぶるネーミング(がっキー)を施し、変えるべきところは変え(パッケージング)、大事にすべきところ(無添加での製法)を守る。
 
地方発のヒット商品づくりのお手本のような話でした。ヒットに「不思議」はない。必ずそこには理由があるということですね。
 
最後に…。「いぶりがっキー」の作り方、写真に収めてきたので、ご紹介します。
 
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大根を手作業で干して…。
 
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煙でしっかりと燻します。
 
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そうして仕上がったいぶりがっこを、細く切ります。
 
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これまた手作業で板の上に並べて、乾燥させ、完成。
 
なかなかに手が込んでいます。これは確かに、注文数が飛躍的に増えても、おいそれと増産はできませんね。

 

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