事業承継において代表者個人の連帯保証債務を引き継ぐことについて、代表者生前時の事業承継の場合と、相続による事業承継の場合とで分けて書いてみようと思います。
オーナー社長が経営する中小企業の事業承継では、銀行借入金の連帯保証も新代表者が同時に引き受けることとなります。
一般的に年商が1億円くらいの会社でも数千万円の借入をしていることが多く、
年商10億円の企業ともなれば金融機関からの借入金は数億円になることも普通です。収益率が高く通常の返済がされていればまだいいのですが、リスケをしている企業の場合、とくにこのことが問題になります。
そこでまず、代表者生前時の事業承継における保証債務について書いてみようと思います。
父親がオーナー企業の社長で、生前時にその子供に事業を承継する場合を例にしてみます。
この会社、資産超過・黒字ですが、かなりの銀行借入があり、その子供が新社長になって、その時点では株式の大半を父親が所有していたとすると、父親の連帯保証をはずすことはまずできないだけでなく、新社長が保証人として追加されます。
仮に株式も新社長である子供に全額譲渡した場合、新社長が会社の連帯保証人になるのは当たり前ですが、前社長である父親の連帯保証がはずれるかというと、この場合でも簡単にははずれないのです。
金融機関にしてみれば、かなりの融資残高があるのに、前社長の連帯保証を解除するのは不利益になるからです。
それでは、どうしたら前社長の連帯保証を解除できるのかというと、よく銀行との交渉が必要と言われますが、実際には交渉ではなく、連帯保証を解除するのに必要な前提条件を銀行側に提示できるかどうかで解除に応じてもらえるかがはっきりすると考えたほうがよいです。いくら交渉能力があって説得すれば保証解除はできると思っていても、その話を聞く銀行側からすれば前提条件に当てはまるかどうかだけを判断しているのです。
では、その前提条件とは何かというと、連帯保証解除に十分な担保であったり、新社長の信用・経営手腕であったりといわれています。
ところが、新社長の信用力については、まだ社長に就任したばかりで未知数であり、十分な担保は、担保不足を補ううえで十分な新社長所有の不動産を新たに担保にいれることなどを意味します。
この保証解除の条件がいかに現実的でないかは、銀行融資を熟知している人なら容易にわかることだと思います。
企業経営というリスクを承知して社長に就任した子供が「担保不足を補ううえで十分な不動産」を担保にいれられるかというと、なかなかできないのが現実なのです。
前述したように、「年商10億円の企業ともなれば金融機関からの借入金は数億円になるのが普通」ですから、その数億円の融資の担保不足を解消するだけの不動産というと、自己資金だけで買った数千万円のマンションなどになると思います。
それだけの資産を社長就任前に現金で買える人はきわめて経済合理性を考えている人であり、それゆえに承継する企業が魅力的な財務内容でないかぎり承継を選ばないものです。
仮に、承継する企業がそんなに魅力的な会社であれば銀行側も連帯保証解除のハードルを下げてきます。
少し古い規定ですが、ある県の信用保証協会の実務を解説した文書では、「連帯保証人の変更・解除」という項目にこう書かれています。
「連帯保証人の変更・解除」
代表者交代があっても辞任した旧代表者の解除は認めていません。ただし、辞任をした代表者が当該企業の株式を所有していなかった場合、または親会社から期限を定められて出向していた場合においては辞任した代表者の解除を認めることがあります。
事業承継における前オーナー社長の連帯保証解除は簡単にはできないのが現実です。