昨年12月、東京都産業労働局より「令和2年度中小企業の賃金・退職金事情」が公表されました。厚生労働省や経団連等から様々な統計資料が公表されますが、退職金制度を詳細に扱ったものは少なく、特に中小企業の現状に関する資料としては、東京都の資料が最も充実しています。自社の退職金制度を検証するときは、東京都の統計を用いるのが便宜です。
- 大企業(資本金5億円以上、従業員1000人以上)については、中央労働委員会「賃金事情等総合調査」において、退職金及び退職年金制度についての詳細な調査が行われています。
東京都の調査によると、定年退職時の退職一時金支給額(会社都合)は、大学卒1118.9万円、高専・専門卒1026.0万円、高校卒1031.4万円です。上述の中央労働委員会による大企業の退職一時金(定年時)では、大学卒で2500万円を超える額になりますので、中小企業ではその半分にも満たないことがわかります。
中小企業の退職金支給額は近年減少傾向にあり、10年前(平成22年調査)の9割を割り込む水準まで落ち込んでいます。中小企業の退職金制度は、水準面でも支給方法の面でも総じて縮小傾向にありますが、優秀人材の定着を考えれば、マイナス効果しかありません。
何らかの退職金制度を持っている中小企業は全体の65.9%ですが、そのうちの71.8%が退職一時金のみで、退職年金制度を併用している会社は23.3%に過ぎません。3社に2社は退職金制度があるものの、その大半は一時金制度だけということです。大企業では、退職金制度を持っている会社の85.4%が退職一時金と退職年金制度を併用していますので、退職金制度はその内容面でも、企業規模によって大きな差があることがわかります。
退職金制度は、①功労褒賞、②勤続褒賞、③老後の生活保障などの目的を併せ持った制度ですが、税法上の優遇措置も厚く、人生100年時代を迎えたいま、老後の生活保障としての意義がより増しているものと考えられます。定年までの長い期間を勤め上げた方ですから、自社OBとして恥ずかしくない金額を用意したいところです。そして、実力社員が定着し、長期間にわたって士気やモチベーションを高く持ち続けるためにも、退職金制度が有効な仕組みだということを、再確認していただきたいと思います。
退職金制度をチェックするためのポイントとして、次の5項目を挙げておきましょう。
- 勤続期間の貢献度を的確に反映できること
- 退職金の水準が世間と大きく乖離していないこと
- 自社の支払能力に見合っていること
- 算定式の構成要素が合理的でバランスの取れたものであること
- 算定式が分かりやすく、かつ長期間使用できるものであること
人材獲得競争の厳しい時代は、始まったばかりです。退職金制度は、福利厚生面だけでなく、人材定着に向けた基本戦略の一環として位置付けなければいけないのです。