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戦略・戦術

第130話 「銀行提案の相続対策にご用心を!」

強い会社を築く ビジネス・クリニック

私のもとには、日本中から経営者が相談に来られます。
そのなかで、特に多いのは事業承継、相続問題です。
 
拙著「承継と相続 おカネの実務」では、私なりの事業承継の考え方をご紹介しておりますが、井上式事業承継対策の柱は、高額退職金と種類株式の活用にあります。
ところが、たくさんの経営者の相談を受けると、世間ではどうも違う対策がとられているようです。
 
経営者から相談を受けたとき、一番多いのは、
「井上先生、銀行から事業承継の提案を受けています。私にはよくわからないのですが、先生はどう思いますか?!」
というものです。
 
「そんなもの見るまでもない!どうせ、“持株会社を作りましょう。社長の株を、その持株会社に売却してください。持株会社が買い取る株式の取得代金は私どものほうで融資させていただきます”に決まっているじゃないか!」
「先生、よくお分かりになりましたね~!」
 
毎回、こんなやりとりになるのですが、最近、この銀行が提案しているような持株会社を使った対策が、税務調査で否認されるケースが出始めてきました。
 
持株会社が事業承継対策として使われる理由は、会社の株式は、個人で持つより会社で持つほうが、評価が下がるからです。たとえば、いま、社長個人として持っている自社株が、5年後に1億円値上がりしたとしましょう。個人で持っている場合は、そのまま1億円分財産(株価)が増えたことになりますが、これを会社で持った場合は、値上がり益を約6,000万円に抑えることができるのです(含み益の38%控除)。
 
株価の高いA社のオーナー経営者が、事業承継対策として、持株会社のX社をつくります。オーナー経営者は、A社の株式をX社に売却します。そうすると、オーナー経営者は、X社を保有し、X社は、A社を保有することになります。
これによって、オーナー経営者は、将来さらに株価が高くなるであろうA社ではなく、X社の株式を保有することになります。結果として、オーナーがもつ財産(株価)を大きく下げることができる、というのが、銀行が提案するスキームです。
 
銀行にはカネがあまり、貸出先を見つけるのに必死です。
税理士業界も競争が厳しく、顧客を見つけるのに必死です。
利害が一致する銀行と税理士法人が手を結び、株価が高い会社を狙って、持株会社のスキームを提案するわけです。
 
私は、そもそも持株会社スキームには、懐疑的でした。
一番ひっかかるのは、持株会社が銀行からお金を借りることです。
そのお金はどうやって返してゆくのでしょうか?
 
さらに首をかしげてしまうのは、ときどき、持株会社の株主名簿をみると、後継者ではなく、オーナー自身が100%持っている、という場合があることです。これでは、何のために対策を打ったのか、意味がわかりません。
 
持株会社の設立をはじめ、組織の再編がからんだ大規模なスキームを実行する場合には、必ず“ストーリー”がなければいけません。つまり、「どうして、この持株会社X社を設立するというスキームを実行するのか?何のために?」という理由(あらすじ)が必要なのです。この意味で、銀行が提案する持株会社のスキームは、節税以外に何の目的もなかったのでしょう。そうであれば、否認されるに決まっています。
 
私も、会社によってはホールディングの設立を勧めることがあります。ただし、それはその会社の存続、発展のためにそうすることが必要であると考えているからです。決して、租税回避、納税逃避のために行うのではありません。
その場合は、組織体制に関する経営診断を行い、メリットデメリットをはっきりとさせたうえで、経営者にアドバイスさせていただいています。これによって、会社の法人税、あるいはオーナーの相続税が減ったとしても、それはあくまで結果なのです。
 
国家は、法人税を下げるかわりに、個人(富裕層)からたくさん税金をとる方針です。持株会社スキームの否認という事実は、まさにその代表例です。
 
既に持株会社を作ってしまった場合は、どうすればよいでしょう?
そうお考えになる経営者の方々もたくさんいらっしゃるでしょう。
 
「持株会社は、会社として機能しているか?」
改めて確認してみてください。
 
持株会社は、グループ会社を統括し、グループ全体の経営戦略を考えることが仕事です。あるいは、会社によっては持株会社自らが、事業を行っている場合もあります。いずれにせよ、短絡的に節税目的で作った持株会社を、単なる受け皿としてではなく、会社として機能させてゆくことが非常に重要なのです。

 

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